第6話 通信担当の記録【壱】

傍受記録 通信管制室 観測員C-0892


日付:崩壊歴47年 如月〜弥生



如月3日 傍受記録


定時通信。各セクターからの報告を受信。


セクター1:異常なし。エコー観測2件。


セクター2:異常なし。エコー観測1件。


セクター3:通信不良。再送要請。


セクター4:異常なし。エコー観測0件。


セクター5:異常なし。エコー観測3件。


セクター6:異常なし。エコー観測1件。


セクター7:異常なし。エコー観測1件。


全セクター正常稼働中。



如月3日 個人ログ


毎日同じだ。


「異常なし」「エコー観測X件」——これがすべてのセクターから送られてくる。


私の仕事は、これを受信し、記録し、上層部に報告することだ。


何年もこの仕事をしている。何も変わらない。


エコーの報告件数が増減することはあるが、「異常あり」という報告は一度もない。エコーは「異常」ではないのか? 公式には「観測対象」であり「異常」ではないらしい。カテゴリが違うのだそうだ。


私にはよくわからない。



如月17日 傍受記録


定時通信。異常——


いや、待て。


セクター7からの通信に乱れ。


セクター7より定時報告。本日の観測において、エコーは——


——は存在し——


——確認され——


[ノイズ]


——ない。繰り返す。エコーは——


[通信途絶]


再送要請を送信。応答なし。


上層部に報告。「通信障害と思われる。復旧を待て」との指示。



如月17日 個人ログ


セクター7からの通信が途切れた。


途切れる直前の音声を何度も再生した。


「エコーは存在しない」と言おうとしていた——ように聞こえる。


しかしノイズが酷くて、確証はない。


「エコーは存在した」とも聞こえる。「確認された」とも「確認されなかった」とも取れる。


考えすぎだ。


ただの通信障害だ。



如月18日 傍受記録


セクター7との通信復旧せず。


他セクターに問い合わせ。


セクター5:「通信障害だろう。うちも時々ある」


セクター6:「知らない。うちは正常だ」


セクター8:「セクター7? 最近通信した覚えがないな」


上層部からの指示:「復旧を待て。現場での対応は不要」



如月24日 傍受記録


セクター7、依然として応答なし。


通信途絶から一週間が経過。


上層部に再度報告。「経過観察を継続せよ」との回答。


何を観察するというのか。通信がないのに。



如月24日 個人ログ


おかしい。


一週間も通信が途絶しているのに、誰も気にしていない。


上層部は「経過観察」と言うだけ。他のセクターは無関心。


私だけが気にしているのか?


過去の通信ログを遡ってみた。


セクター3が通信途絶したことがある。崩壊歴31年。3日間で復旧している。原因は機器の故障だった。


セクター9が途絶したこともある。崩壊歴38年。5日間。原因は悪天候による中継器の損傷。


いずれも復旧している。


しかし——


ログをさらに遡ると、復旧しなかったケースもあった。


セクター14。崩壊歴22年に通信途絶。以降、記録なし。


セクター11。崩壊歴29年に通信途絶。以降、記録なし。


セクター16。崩壊歴35年に通信途絶。以降、記録なし。


全て、「経過観察」のまま記録が終わっている。


セクターが消滅したのか。全員が死亡したのか。


わからない。記録がないのだ。

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