アーカイブ・エコー

くりんぽ

プロローグ:新任観測員のための手引き

——新任観測員のための手引きより抜粋——


あなたがこの文書を読んでいるということは、観測施設への配属が決まったということだ。まずは歓迎する。


47年前、世界は崩壊した。


原因は今も分かっていない。ある日を境に、都市は瓦礫と化し、通信網は寸断され、人類の大部分が姿を消した。生き残った者たちは散り散りになり、かろうじて機能する施設に身を寄せた。それが、今あなたがいる観測施設だ。


現在、確認されている施設は十数箇所。それぞれ「セクター」と呼ばれ、無線通信で緩やかに繋がっている。外の世界——廃墟と化した都市、荒れ果てた大地——は依然として危険であり、探索には細心の注意が必要とされる。


観測施設の使命は、記録することだ。


崩壊後の世界で何が起きているのか。どのような変化があるのか。そして、私たちは何を見たのか。全てを記録し、保存し、後世に伝える。それが観測員の仕事であり、この施設が存在する理由だ。


なぜ記録するのか、と問う者もいるだろう。誰が読むのか、何の意味があるのか、と。


答えは単純だ。記録がなければ、私たちがここにいたことすら、誰にも分からなくなる。崩壊で失われたものは数えきれない。せめて、これから起こることだけは、残さなければならない。


あなたの任務が何であれ——フィールド探索、通信管理、アーカイブ整理——その根底にあるのは同じ原則だ。


見たものを記録せよ。聞いたことを記録せよ。そして、記録を残せ。


最後に一つ。


観測対象の中に「エコー」と呼ばれるものがある。詳細は追って説明されるが、もし遭遇した場合は速やかに報告すること。恐れる必要はない。ただ、記録せよ。


健闘を祈る。


——観測施設中央管理局

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