完全犯罪は簡単だ
テマキズシ
完全犯罪は簡単だ
「…ねえ知ってる? 完全犯罪って、簡単なんだよ」
学校の屋上で、彼女。西野茜はそう言った。
ニッコリと太陽のような笑みで、まるで「今日、遊びに行こう」と言っているように、楽しそうに。
「…ええ? いきなり何言ってるの?」
僕は思わずそんな事を言ってしまう。
突然彼女に呼び出されて何かと思ったら、こんな意味の分からない話をされたんだ。当然の反応だろう。
「完全犯罪って、案外簡単だって話さ。皆完全犯罪を未知の存在だと思いすぎてる。案外そこら中に、完全犯罪はあるというのに」
彼女はまるでミュージカルの演者のように、楽しそうにクルクルと回る。
そして突然、ピタリと止まった。
「完全犯罪の法則とは…犯罪を隠すことではない。犯罪という概念そのものを成立させないことなんだ」
ニヤリと笑い、彼女は俺を見る。
俺は思わず、自分の中にある疑問を彼女に突きつけた。
「それで? それで何でその話を俺にしたんだ? 俺を殺して完全犯罪でもしたいの?」
フッと俺が鼻で笑うと、彼女はチッチと舌を鳴らし、指を揺らす。
「その逆だよ。勇気くん!」
「うわ!?」
彼女は俺に抱きつき、笑った。
とても優しく温かい。まるで太陽のような笑みを浮かべ、彼女は言う。
「貴方が…私を殺してくれない?」
「……は?」
俺は固まった。彼女が何を言っているのかまるで分からなかった。頭の中で何度も彼女の言葉が反復し、離れない。
「何…を……言って」
困惑する俺に、彼女は辛そうに声を出す。
「だって勇気くん。気づいてるんでしょ? アノコトについて……ね?」
「………ぅ……あ」
気付かれていたのか?
俺が彼女の……とある秘密を知っていることに。誰にも言ってはいけない。最悪の秘密に気づいてしまったことに。
「ふふ、やっぱり。勇気くん頭良いもん。あの時の私の態度から、色々と気づいちゃったんでしょ?」
「…………ああ。あの時の君は、いつもより明らかに…違ってた。…………君は隠してたけど、俺は気づいてしまったよ」
彼女は俺の話を、ただニコニコと笑い聞いていた。
俺は我慢できず、声を荒げてしまう。
「でも! だからって君を殺すことはできない! だって俺は…君の事……が」
「できるよ。君はできる。私を殺してくれる。私の望みを叶えてくれる」
……彼女は確信していた。
俺の目を真剣に見て、嬉しそうに蠱惑的に笑う。
…………その身体は少し、震えていた。
「だって貴方は、私のことが好きなんだから」
「それでは、判決を言い渡します。主文。被告人を――死刑に処す」
法定が揺れる。
異例の18歳での死刑。傍聴席からは歓喜の声が聞こえてきた。
「理由を述べます」
一度傍聴席の人々を落ち着かせ、裁判長はゆっくりと口を開いた。
「被告人は好きだからだと言う理由で被害者を殺害。臓器を全て取り出すという異常行動を取りました」
裁判所にいた全員に、脳裏に刻み込まれた彼の言葉が再び現れる。
『だって好きだったから。好きな女性の子宮。見てみたくないですか?』
裁判長の声が、震える。
冷静に努めようとしても隠しきれない怒りが、にじみ出ていた。
「さらにその後、犯行を止めようとした教師一名を殺害。さらに複数の教師にナイフで軽傷を負わせました」
俺は笑いそうになるのをこらえ、あくびのフリをしてごまかす。
裁判所全体が怒りに満ちた。
「反省の色は一切見受けられません。更生の可能性もないと断言できます」
だろうな。だってそう振る舞ったんだから。
「よって、判決を死刑とする。……なお、本判決に不服がある場合には、判決書の送達を受けた日から14日以内に控訴することができます」
俺はため息をつきながら、裁判長に、この裁判所にいる全員に宣言した。
「当然不服です。俺は自分のしたいことをしただけだ。こんなこと許されて言い訳がない」
全員の表情に恐怖が出たのに俺は気づく。
裁判長はその表情が顕著に出ていた。
理解できないものを見る目で、俺を恐怖の対象にしている。
そして他の人々達が、何だこの化物は、さっさと死刑にしろと思っているのが伝わり、俺は頬を緩める。
……これでいい。俺の控訴は絶対に受けられない。
俺の死刑は…確定した。
「それではこれにて閉廷します」
勝利のファンファーレが聞こえてくる。
俺は彼女の、西野茜の顔を思い浮かべ笑みが漏れた。
俺は成し遂げた。やり遂げた。
彼女の犯罪は…俺以外誰も知らない、未知のものとなったのだ。
彼女の秘密は守られる。
後は俺が……死ねばいい。
事件の関係者が全員死ねば、彼女の殺意は証明できない。
完全犯罪は簡単だ テマキズシ @temakizushi
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