メガネス

まんぞう・S

〜吹雪の山荘〜

「犯人は『めがね』よ!」

 お嬢様は云い切った。おお、なんと立派になって、と私は目が涙で潤むのを感じた。

 この別荘は、いまは吹雪に閉じ込められた、おかの上の孤島状態。お嬢様のご学友三人と、付き人の私、それから管理人夫婦と吹雪に追われて助けを求めてきた男女のカップルに出自のわからない謎の男だけがいて、大広間で一同会しているのだった。

 真ん中に、うつ伏せになった謎の死体もある。髪が長いがスキーウェアを着てるせいで性別すらわからない。

「ええっ!」とご学友の一人、ベッキー嬢が心底驚いたように云う。「そんなまさか!」

 カーミラ嬢、マリー嬢もありえないといった風に首を振っていた。

 三人とも眼鏡をかけていらっしゃる。

 管理人のミスト氏が「それは早計では……!」と云うが、眼鏡をかけている。

「ああ、怖い」という奥方も眼鏡をかけている。

「いや、眼鏡とは限らないんじゃないか」と冷静な態度のカップルの片割れの若い男は勿論眼鏡をかけているし、その相方も眼鏡をクイっとしながら「可能性としては十分ありうると思うわ」などと呟く。

 謎の男は眼鏡をかけていないが、呆然と立ち竦んでいる。死体はもとより眼鏡の有無はわからない。


「えへ、バレたあ〜?」


 が器用に二本の足だか手だかを使ってていったので、お嬢様達は犯人を追っていった。

 特製のケーキを駄目にした犯人は、本当にめがねだったらしい。探偵を目指しているというだけあって、お嬢様、流石の慧眼というべきだろう。

 私は死体のそばに寄り、小さく死者への祈りholy playを唱えた。死体の幽霊は光の粒子となって消え、謎の男は涙を流しながらそのあとを追った。

 めがねはきっと、あの謎の人物達を助けようとして、ケーキにいたずらをしたのだろう。あいつには、そういうお人好しなところがある。

「早く来なさい、セバス!」

 隣の部屋にいる、お嬢様の声が聞こえる。

「ケーキ、もう駄目かと思ったけど案外大丈夫そうだわ、早く食べましょ! あと、あなたの眼鏡、お仕置きだからね!」



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メガネス まんぞう・S @man_elephant

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