既読

紙魚。

既読

最初は、ただの勘違いだと思った。


 グループチャットで、

 いつものように通知が来た。


 重要そうな話題だったが、

 そのときは忙しくて、

 画面を開いただけで閉じた。


 読むつもりはなかった。


 だから、

 既読が付いたことも気にしていなかった。


 数時間後、

 電話がかかってきた。


 「なんで止めなかったの?」


 意味が分からなかった。


 何を、止める?


 相手は言った。


 「だって、もう知ってたでしょ」


 私は、

 読んでいない。


 それは事実だ。


 画面を開いただけで、

 内容までは確認していない。


 そう説明しても、

 相手は首をかしげた。


 「でも、既読だったよね?」


 それ以上の説明は、なかった。


 責められもしない。

 怒られもしない。


 ただ、

 知っていた前提で話が進む。


 後から履歴を確認した。


 確かに、

 メッセージは「既読」になっている。


 だが、

 自分がその内容を理解した記憶はない。


 それでも、

 記録はこう言っている。


 「確認済み」


 翌日、

 別の件でも同じことが起きた。


 開いただけ。

 読んでいない。


 それなのに、

 「もう共有した」と言われる。


 私は、

 何も返事をしていない。


 同意も、否定もしていない。


 だが、

 既読は付いている。


 その日から、

 少しずつ扱いが変わった。


 確認を取られなくなった。

 説明も省略されるようになった。


 理由は、

 簡単だった。


 私は、知っている側の人間

 ということになっていたからだ。


 ある夜、

 ふと気づいた。


 既読が付く前から、

 前提が置かれている。


 「見ているはず」

 「知っているはず」

 「理解しているはず」


 私は、

 スマートフォンを伏せた。


 これ以上、

 確認しないために。


 だが、

 画面を閉じる直前、

 通知が表示される。


 既読 1


 それだけで、

 十分だった。

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既読 紙魚。 @shimi_

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