生まれた時から刺激的


 お金というのは人生を壊す。


 B子の両親はその典型的なタイプだった。


 彼女が生まれた時には、億に迫る借金。


 両親の性格は真逆。


 片方はだらしない。

 もう片方は生真面目という組み合わせだ。


 B子は6歳の時、将来の夢は1LDKの部屋に住む事と語り、担任を泣かせた。


 彼女曰く、この頃には周囲から浮いていたという。


 当時の彼女は、夕焼けを見ると、1年後も同じ感想なのだろうか? という疑問を毎回抱いていたそうだ。


 たった1年で人間の心は変わるのだろうか、と。


 一年違えば、全然違うと周囲の子は口にする。


 だが、B子はたった一年なのに……と納得出来なかったそうだ。


 一年後。


 B子「うん。やっぱり同じ。何も変わらない」


 彼女は同じ感想を抱いた。


 奇妙な寂寥感と、込み上げる何か。

 周囲とは時の流れ方が違う子だったのだろう。


 さて、再び彼女の両親に触れる。


 困った事に、B子の両親は子供のまま親になってしまった人だった。


 いつまでも父性を求め、家庭内不和を招く母親。


 自身のアイデンティティとする為に、妻を必要とする父親。


 子供はいらなかったが、妊娠した為出産を決意。


 後に、出来たのだから仕方無かった、と生んだ理由をB子本人に直接伝えた。


 それはB子にとって、自身の存在意義を揺らがせる一因となる。


 彼女の人生が急変したのは、10歳の頃だったそうだ。


 始まりは、父親の自殺未遂。


 服薬自殺を試みたというのだ。


 学校から帰ったB子が最初に目にしたのは、床に倒れ伏す父親と散ばる錠剤。


 失敗に終わり、意識のあった父親はB子に


『― ― ― ―』


 という一言を浴びせた。

 この日から、彼女は父親を生かす為のお人形へ。


 B子にとって、反抗期が無縁となった瞬間だった。


 とは言え、辛い事は辛い。


 そこで、B子は妙案を思い付く。


“自分じゃない”、と。


 これは劇的な効果を発揮した。


 痛い事や辛い事も全て他人事。


 便利であったが、それは後に問題として残る。


 まあ、それは後ほど語ろう。


 時は流れて、1年後。


 B子の母親が倒れた。


 それによって、彼女の母親は脳に激しい障害を負った。


 原因や要因は伏せよう。


 B子は母親を嫌っていた為、ショックは無かったという。


 入院してから、徐々に弱る母親。


 毎日通う父親。


 B子は鬼気迫る父親と重苦しい空気の中過ごした。


 それから更に一年。


 B子はに支えられ、何とか日々を生きた。


 そして、遂に母親は他界。


 詳細は伏せるが、B子に呪いの言葉だけを残して。


 此処から、B子の人生は大きく狂い出す。


 父親が目論む無理心中を潜り抜け、少々大きな出来事も生き残り……大切な人を亡くした。


 自分が死ねば良かったのに。


 そんな気持ちを抱いたとも、B子は語る。


 ……此処で話は終わらない。


 母親が他界して2年後。


 今度は父親が病を患う。


 余命宣告は1年。


 B子は冷静に受け止め、心の中で割り切った。


 父親の最後を見届けようと。


 本当は……父親を憎悪していたのに。


 B子は疲弊しながらも、最後まで見届けた。


 やはり、父親に呪いの言葉を浴びせられながら。


 こうして、B子は完全に壊れた。


 この頃だ。


 B子は運動神経がある方だったが、自律神経を大きく狂わせ、運動音痴になったのは。


 現在、彼女は小さな段差でも派手に転ぶし、咄嗟に受け身も取れない。


 状況や場所によっては、あっと言う間に命を落とす。


 そんなスリリングな日々を送っている。


 さて、此処で彼女に残った厄介な問題に触れよう。


 友人達……複数の人格を生み出す事で、B子は自身の心と命を守って来た。


 それを何と呼ぶのかは詳しい方なら察しが付くだろう。


 B子は病院に通い、治療を開始。


 症状は重く、今現在も完治していない。


 完治は難しいとの事だ。


 それでも彼女は人生を謳歌している。


 心停止した時に聞いた電気ショックの音。


 響く心電図モニターのアラーム音。


 死にゆく人間の呻き声。


 そんな悪夢に苛まれる事もあるが、今は幸福なのだ。


 一日の大切さを知っているし、失ったからこそ得た人も居る。


 だから、この人生で良い。


 それがB子の出した結論である。


 ― ―さて。


 私とB子の関係性について触れよう。


 B子と私はとても仲が良い。


 間違いなく一番の親友だ。


 彼女が10歳の時から、ずっと付き合いが続いている。


 B子から縁を切らない限り、関係は続いて行くだろう。


 私から切る事は決して無い。


 全ては彼女次第。


 ふふっ、何故でしょうね?


 それも御想像にお任せしましょう。


 

 これでお話は以上です。


 読んで下さり、ありがとうございました。

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事実は小説より奇なり 冬乃一華 @Fuyuno_Ichika

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