男の美用法
なかむら恵美
第1話
次男と会った。
時間があるなら食事でも、誘ったのである。
パテシェをやっている次男は今、猛烈に忙しい。
3泊4日のお泊り仕事。超多忙な日々である。
何せクリスマスが控えている。入社2年目の若造だ。
自宅に帰れないのが残念だが、彼女さんがしっかりやってくれている。
2人ともラインより、直電(じかでん)。声が聞きたいタイプだそうだ。
(ん?)
ランチを食べながら、マジマジ肌を見る。
キレイになってない?
肌男(はだお)とまではゆかなくても、格段に艶めいている。
シミもない。
まぁ、22歳で染彦(しみひこ)には、まずなるまいが。
「何か?」
気づく。ヒレカツを食べながら、聞いてくる。
「肌がキレイになったな、と思って」
「だろ。実はやってるんだ」
今度は、豚汁を口にした。
「何を?エステ?男の美容?高いんでしょ、ああいうの」
負けじとわたしも、ヒレカツを食べる。
「そんな余裕が、ある訳ないじゃん」
笑いながら、否定した。
「俺がしているのはね、めちゃ安版。そこいらで全てが足りる奴です」
「めちゃ安?」
「石鹸と乳液、メンタームだけ」
「そんだけ?」
三千円も掛からない。締り屋が、いかにも考えそうだ。
通りかかった店員さんに、デザートを頼む。
「あんみつを2つね」
壁に掛かった時計をチラチラ見ながら、運ばれてきたあんみつを
次男が食べながら、教える。
「俺が小学生の時、兄貴がやってたじゃない」
「そうだっけ?」
「そうだよ。俺が3年生ぐらいの時、兄貴は高校だったけど、ニキビが
あったんだよな、結構」
段々、思い出して来た。
好きな女の子に振り向いて貰いたい一心で、長男は、自己流ニキビ撃退法
を編み出したのだ。
「石鹸で優しくよぉーく洗顔。更に優しくぬるま湯で洗い流す。 乳液をつけ、
メンタームをたっぷりと塗る。メンタムは高いから、これで十分」
「良く覚えているわね」
「うん。だってニキビが薄くなっていったもん、兄貴。で、寝る前にもメン様を、
って言ってたぜ」
「ほぉーん」
「おっと。時間ヤバ」
大急ぎであんみつの残りをかっこみ、お茶を飲む。
「そんなところで、じゃっ。今夜からお母さんもやってみ。若返るかもよ」
「あら、嬉しいわね、何歳かしら?5歳ぐらい?」
「いや、10歳いっちゃうかも。けど反面、皺がそれだけ目立ちまくる。肌年齢に合わないからね」
「コラっ!」
「てな訳で。じゃっ、ごちそーさん」
軽く手を振りバイバイと、小走りに次男は店を後にした。
<了>
男の美用法 なかむら恵美 @003025
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます