建御名方之剣 番外編
タントラム
番外編 ラーハルト〜焔の剣〜 第十四節之閑話・壱
御槌流空手道場の夏季合宿の夜、元『燃える太陽教会』の
その中で何故あれ程の大人数による襲撃を受けたのかの理由の話になった時、ナディアがあれは自分を探してやって来た連中だったと改めて皆にも明かした。
「みんな、済まなかっタ、私のせいで……」
苦悩の内にそう言葉を絞り出したナディアは頭を
元はと言えば彼女自身が那美の父であり御槌流空手道場の師範、
『そうだな、だがそのおかげで新しい人生を始められるんだから良かったと思えば良いだろう』
暗殺に失敗したあの日、落ち込む自分に那美からそう掛けられた言葉を思い出す。
それからはそれまでの人生とはまるで違う平和な日々の暮らしに甘んじていたのだが、今日とうとう追手の襲撃を受けた事を明かし、自らの正体と罪の清算を迫られる年貢の納め時が遂に来たかと、沙汰が下される事に怯えていた。
「そんな事より奴らが帰り際に近所で悪さをしないか気になりますな」
慈圓院長のひと言で自らの罪やら何やらかんやらが"そんな事"扱いにされてしまってナディアは衝撃を受けた。身体だけじゃなく器までデカ過ぎだろこの人。
「警察を呼ぶべきでしたかね?……と言ってもパトカーが着くまでおとなしくしてそうな連中でも無さそうでしたが」
渡辺師範代が腕を組んで考え込む。
「まぁ大丈夫やろ、あっちゃこっちゃで派手にやらかすつもりなら昼間にでも来とるはずやろし変装して潜り込んで来た上に夜に紛れてコソコソ来るような奴らやさかい、やり返されてビビッた失敗は相当応えとるはずや」
彬が言う。そういう物なんだろうか。
「確かに、彼らがどんな方法でどんな用意をしてここまで来たかは知りませんが、我々に追い払われてその上に市街地で何かやらかして警察に追いかけられる羽目になれば飯も食ってられないでしょうからね……異国の地でそうなるよりまずは生活の心配をしなきゃならない所ですね」
道雪が言い、それに一同も頷いた。
「ワシもイギリスで似たような事が有って散々な目に遭うたからな……人間やっぱりまずは食うていかなあかんのや」
彬が言うがこの面々の中で一番人間離れし過ぎていて何が有っても力技で無理矢理生き残りそうな彼がそういう事を言い出すのは意外と言えば意外ではある。
「しかし危険が全く無いとも思えないから今夜は念の為に大人の皆で見張り番を立てる事にしようか、まず私は立つとして……師範代、他の大人達に見張りを頼めるか聞きに廻ろう」
竜馬はそう言って立ち上がった。
「明日の予定も変更しないとな……早朝稽古は無しにしよう、それも伝えておいてくれ」
「押忍、見張りの時間はどうしましょうか?」
「引き受けて貰う人数でまた考えよう……それでは院長、隆さんに道さん、ご迷惑を掛けてしまいすみませんでした」
父と大人達があれこれと話を進めていく間、口を挟まずに居た那美だったが、自分も道場の指導員という立場があるからには皆の安全を守らねばと思い、
「師範、私も見張りに立ちます」
と、立ち上がった。しかし、
「那美はジュニアクラスの人数を確かめてから寝ておきなさい」
竜馬に断られてしまった。
こうなっては仕方無いが、今夜はなるべく意識を集中しておいて何か起きたらすぐに飛び出せるようにしておこう。
こうして今夜の話し合いの場は解散となった。
大人達は大人組の宿営地に戻って行き、那美達6人もジュニアクラスの宿営地に戻る事にした。
「那美さん、ちょっとよろしいかしら?」
戻る道中、先を歩く那美に亜美が話し掛ける。
「……ん?なんだ?龍王院」
那美は歩きながら聞き返す。
「これからジュニアクラスの人数と無事の確認に向かうんですわよね?」
「そうだな、全員もう寝る支度をしてはいるだろうから一通り見て廻ってから寝るだけになるな、出来れば私も見張りに立とうと思ってたんだが……」
那美はやや無念そうに言う、すると亜美が、
「でしたら人数確認を何度か行えば良いんじゃありませんこと?夜中にお手洗いに行く子も出て来るでしょうから」
亜美のその言葉に那美はハッと気付いた。
道場の師範である父・竜馬がジュニアクラスの人数確認をしたら寝ろとは言ったものの一度で終えろとも、見張り番をするなとも言ってはいなかったのだ。
「それじゃ私とナディアで確認に廻って来るよ、他のみんなはジュニアクラスの人数と顔ぶれは把握し切れて無いだろうし、今夜は休んでて」
那美はナディア以外の面々にそう伝えた。
「那美ちゃん、何も無ければ良いんだけど、気を付けてね……」
照真が心配そうに言い、那美は振り返って笑顔で頷いた。
「アタイはここら一帯に結界を張ってくる、そんなに手間掛かる物じゃないしサッサと済ませて来るよ……照真はテントに戻ってろ」
愛理華が言い、宿営地を見渡した。
「そんな事も可能なんだな、わかった、そちらの方は任せるよ」
那美が応えてふと小菰の方を見ると目が半目になって少しふらついていた。
普段あれだけ活発で何かとうるさい小菰が話し合い中も静かだったし、もう相当眠くなっているんだろう。昼間の稽古と遠泳の疲れも残っているはずだし無理も無い。
「小菰さんはわたくしがテントに送って来ますわ、那美さんは宿営地の確認にお行きになって」
亜美が小菰を支えながら言う。それを見届けながら那美は自分と同じテントの照真を送り届けてからナディアと共に宿営地のテントを一つ一つ確かめに廻る事にした。
宿営地は寺からの道が広場に通じていて、山側に沿ってテントが並んでいる。
広場の中央部の山側には電灯が灯っており、それがこの広場の明かりと目印の役割を果たしていた。
那美は道から近いテントに近付いた。中からは談笑している声が聞こえてくる。
「御槌だが、全員揃ってるか?」
とテントに声を掛ける。
蚊帳だけを閉じて入り口を開いている中から高1の女子の
「ウチは全員居ます……さっき本堂の方が騒がしかったみたいなんですけど、何かあったんですか?」
と聞いて来た。
「いや、大人達が飲んで騒いでただけなんじゃないかな、それよりもうじき消灯だしそろそろ寝る用意をしてね」
那美はそれだけ言って次のテントへ向かった。
そうやって一つ一つテント内への声掛けをして行き、先程の騒ぎについても説明……というより何とか誤魔化して回ったが、トイレやその他の用で離れている者は居ないみたいだったので、一番奥まった所にある亜美たちのテントにやって来た。
「御槌だが全員……では無いか、愛理華さん以外の2名は居るか?」
中に向かってそう声を掛けると登尾善子が顔を出した。もう寝る用意をしてるのかポニーテールは解いている。
「那美さん、見回りですか、ご苦労様です」
善子はそう言いながら蚊帳を開いた。
那美が頷きながら中を覗き込むと、一番手前が善子のコットで、その隣が愛理華のコット、奥に亜美のコットで亜美は既に眠っている様だった。
このテントは4人用なのだが人数の関係でこの3人が入っている状態だった。
「異常は無さそうだな、それじゃもうすぐ消灯だから……」
那美がそこまで言うと善子がTシャツの袖を掴んで来た。顔を見ると何やら真剣な表情をしている。
「ん?どうしたの?」
そう那美が聞くと善子は決心したように、
「那美さん、私と寝て下さい」
と言った。
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