冬至。ーある日の校庭ー
@jack_around
第1話
冬の運動場は寒かった。
北風に飛ばされてカードゲームも朝礼台でやれたものじゃなかった。
校庭のどこに行っても風が短パンから出た足をなぞる。
日向を追いかけるように遊具を回遊していると、ぼっくんが体育館の裏から走ってきた。
「倉庫の鍵空いてる!」
「マジで!」
鼻を手の甲で拭きながら、ぼっくんとツヨちゃんと僕は駆け出した。
日曜の校庭にパタパタと足音が響く。
それもまた北風が掻き消していく。
3人で体育倉庫の扉を開けた。
「マジだ、、。」ツヨちゃんが口を閉じずに呟いた。
しんと重めの沈黙を持つ倉庫の空気に、恐る恐る足を踏み入れ、追ってきた北風にお尻を押されて僕はピシャリと扉を締めた。
鉄扉の隙間から風がびょうびょう入ってくるが、音ばかりで騒いでるだけだった。
小窓から差す陽光が体育マットから浮かぶホコリを煌めかせていた。
「布団あんじゃん!」と僕がマットに飛び乗り、2人が続いた。
マットは日差しに少し温められ、赤くなった素足を撫でてくれた。
誰も来ない体育倉庫の上で、3人でカードゲームをしていた。
カードに夢中だったが、僕は不意に景色を見渡した。
跳び箱、ネット、ボールかご、三角コーン。
静まり返った倉庫と白く光りながら舞うホコリ。
漂う光の粒が時間がさも止まっている様に感じさせる。
僕は目を細めた。
カードゲームに夢中になっていたが
次第に絵柄が見えなくなってきていた。
ぼっくんがGショックのライトをつける。
「まだ4時なのに、もう暗くなってきたね。」
薄暗くなりつつある窓を見て、3人ともソワソワと尿意を訴えた。
昼までの白くきらめく景色はいずこ、静まり返った暗い倉庫は、そこかしこの影から何かが這って出てくる予感を3人の背筋に走らせた。
一目散に3人は倉庫から飛び出し、トイレに駆け込んだ。
「は〜っ…。」
すっきりした3人のため息は揃い、束の間で笑い出した。
何故あんなにも怖くなったのか、3人ともわからなかったし、その馬鹿げた自分達を思い出したからだ。
家に帰ろう。と走って校門に向かう途中、僕は言った。
「また行こうぜ、あの“あったか秘密基地”」
ぼっくんも、ツヨちゃんもわかった!と白い息を吐きながら街頭に照らされた坂道を走った。
岡の上から遠くを見ると、車のライトや信号が無機質に夜を教えてくれた。
がちゃり。
僕は鍵のかかってない玄関を開けた。
ポストに溜まって重なった郵便がその拍子に何枚か落ちた。
真っ暗な家に着いた僕は、灯油缶が空になったストーブを無視して、布団に潜り込んだ。
耳鳴りがする程、家の中は静かだった。
暗がりで冷え切った布団が温まるまで奥歯がカチカチとなっていた。
両親が帰ってこなくなってから何日たったか知らない。
姉もどこに行ったかもあまり興味ない。
しばらくして奥歯に入った力を抜くとカチカチとした音すら止んだ。
畳に擦れる布団の音が乾いたまま部屋に響く。
蛍光灯の光が冷たく頬をさしているから、まだ肩の震えは止まらなかった。
ただ、
僕はまた、あの白くきらめくあったか秘密基地に行けば、この震えが止まることを知っている。
団子になってマットに並べば暖かい事を僕は知っている。
「時間が止まったと思ったんだけどな、、。」
くすくすと笑いながら、あの風景を僕は思い出していた。
部屋に迷い込んだ蛾が何度かカツンと蛍光灯にぶつかった音がしていた。
冬至。ーある日の校庭ー @jack_around
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