第3話

「そういえば、パパから二周間後のイカ釣り船の旅で、釣り道具とかを頼まれていたっけ」

「ああ、私も! お兄ちゃん用のいざという時の救命道具!!」

「……はい?」

「パパがね。お兄ちゃんが、はしゃぎすぎて海に落ちた時にって。心肺停止したら乾電池で動く心臓マッサージ器があると便利だって、だから見て来いだって」

「パ! パパーーーン!!」


 妹と一階へ降りていくと、玄関にママがいた。


匡助きょうすけ共子きょうこ。ついでに魚も買ってきて」

「はい!」

「はーい!」


 東京世田谷区の一戸建ての家から、外へ出た。

 申し分程度の常緑樹の並木のある、遊歩道を妹と歩いていると、途中。空からマイクが降ってきた。


「うがっ!」

「はりゃ?」


 ボンっと鈍い音がして、見事に俺の頭上にジャストミート。頭を抑えるよりも。まず、なんで空からマイクが降ってきたの?? という、自然な疑問の方が早かった!


「お兄ちゃん? 良かったね……大当たりよ」

「は?? う……色々な意味で頭痛が……」

「あの人よ」

「え??」


 俺は振り向いた。すると、後ろの方から……他でもない。猛ダッシュして、息を切らせている佐江島 萌理さんがこっちへ向かっていた……。

 

ーーーー


 真っ白な雲海が遥か下の方に見える。

 やがて、日が沈み。大きな漆黒が辺りを包み込み、月が姿を現した。

 窓の外では、東からの風が強いというのに、それでもグングンと空を前進する飛空船。


 その、超大型ともいえる飛空船の中の中央に位置しているVIPルーム内で、俺と佐江島さんと妹は殺風景なテーブルを囲んでいた。


「でも、助かったわね。地面が海野くんの顔面で……マイクが普通の人にぶち当たっていたら、さすがに、私でもどうしようかと思ったわ」

「はあ……」


 こういうことだった。

 佐江島さんは、アイドルグループの人達とレッスン中に、この超大型飛空船からマイクを落としたのだそうだ。停泊のために、超低空飛行していたとはいえ、そこから落としてしまう。というのは、よっぽどの訳があるに違いない。


「普通どっちも助からないよね? あ、でも。その前に飛空船から普通落とさないよね?」


 妹の言う通りだ。

 だけど、多分ね。俺の異能力のお蔭さ。

 俺の頭上にマイクが落ちてきて良かったな。


 現在進行形で、とんでもない奇跡が起きているはずだったが?!


 だが……佐江島さんは、こんなのいつものことよ、といった顔で話しだした。


「鳥が空を飛んでいたから、あらぬ方向へ首を向けちゃってさ」

 

 だ、そうだ……。


 大空の中で、可愛いカモメの群れを見つけたので、以来よそ見をしていたら、手摺り付近での振り付けの時に、マイクがすっぽ抜けたのだそうだ。


 あとは、マイクはカモメのようには飛べず、そのまま情け容赦もない空虚感を醸し出しながら地上へと……。

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