救命

@sgtsgt

第1話

嫌な夢だった。

夢のはずだ。

ありえるはずがない。


6時20分、この時間にしては眩しすぎる太陽が俺を現世へ呼び込んだ。

久々に目覚ましなしで起きれたな。今日はいいことでも起きそうだ。そう思いつつ、俺はいたって普通の一日を過ごした。過ごしていたんだ。家に帰るまでは。 

ガッチャ。「ただいま。」「おかえり。」あたりまえの呼応が響く。俺はドサドサと階段をのぼる。そして、自分の部屋に突入すると、不審なものが一つ。別物の雰囲気を醸し出していた箱があった。俺はこう見えて好奇心はあるほうだ。だからつい、中身をみたくなってしまった。

明けた瞬間。びびったよ。銃じゃん。これ。驚いたのもつかの間、声が聞こえた。

「あなたは私の新しい管理者に選ばれました。」はぁ?よくできたおもちゃだな。俺はそう思い、さっさとベッドに横たわり見るものもないスマホの画面を眺めた。

その後、どんくらいたっただろう。たぶん数分くらい。俺は、この奇妙な銃から発せられる音声をとてもうざったく感じていた。

「外に出てみてはどうでしょうか?」「栄養価の高い食品を取りましょう。」だとか。本当、俺のお母さんかよってくらいおせっかいだった。まぁ、特に今やることなんてなく、実際、暇を持て余していたから、仕方なくお母さんの言う事を聞くことにした。

「外に出るなんて久しぶりだなぁ」なんてことをあいつに話しかけてみたり。けどこれって周りからみたら異常者にしか見えないよな。とか思いながら俺は公園で足を止めた。公園に現れた謎のガンマニア(俺)を横目に子どもたちは元気ではじけるような声で遊んでいる。いいね。子どもの声はあのAIのおせっかいよりずっと聞いてられる。そうぶつぶつと心のなかでつぶやきつつ、俺とAIはしばらくベンチに腰掛けていた。もうすぐ目蓋と目蓋がキスしちゃうんじゃないか、その寸前、それを断ち割るように、耳に残る轟音が鳴り響いた。ギギイイイイイィィ。バンッッ。目は空けなかった。しかし、何が起きたかなんて明白だ。事故だ。俺はパニックになりそうな心をなんとか鎮め、野次でもいくかのように、事故現場へ向かった。

地獄でしかなかった。人が血を流している。泣き叫ぶ友達と思われる子ども。轢かれた子どもの横で倒れ泣く母親のような人。午後4時のチャイムがまるで人生のエンドを知らせているように感じた。おいおい、勘弁してくれ、こんな目に見える絶望をみせられたら、なにもしないわけにはいかないだろ。俺が動いていたら、声を出せていたら。救えていたんだ。

しかし、もう終わった命。

救いはない。


ん?あるじゃないか。救いが。しかしあまりにも不謹慎な考えだ。轢かれた子供に銃口を向けるなんて。それが救いだと思えるのはシリアルキラーだけだ。しかし、この銃が本物だったら…?確かめるのには絶好の機会だった。「おい、ロボット、この銃を使えば、この子供を救えんだよな?」「はい、救えるというよりかは、事故が起きなかった世界に改変するといったほうが正しいーー

バンッッ。銃を撃った瞬間、火花が歪みなが放射し、目眩ましかのような光りが俺を包んだ。そして数秒後、脳を侵食する白濁とした嫌悪感、抵抗できず、完全に認識しきれないまま、一気にこの現実に落とされた。

ベンチの上だ。時刻を確認する。まだ午後4時前だ。戻ったのか。俺は動揺していた。これが本物かもしれないということ、その子どもがまだ生きているということ、時間が巻き戻ったということ。心臓の音と血の流れる音が、耳に残っていた急ブレーキ音と共に脳内でハウリングしていた。AIは言う「あなたが実行したプログラムは正常に動作を完了しました。」続けて言う「現実改変が行われましたので、一定時間後、改変獣が発生します。現実改変自体は完了いたしましたので、ここで現実改変案内プログラムを終了します。改変獣については発生後説明いたします。」

…………?理解ができないことばかりだ。現実が変わってしまったと思ったら。かいへん?それが?なんだったんだ?

その時の俺にはAIの感情のない説明が、ただの日本語の羅列にしか聞こえなかった。

家に帰ろう。悪い夢を見たんだ。今日は休んだほうがいい。そう脳内で反芻しながら、俺はぼつぼつと帰路についた。

公園では、暗くなっても一日中、やけに揃った子どもの笑い声が響いていた。

その夜、ニュースを見た。児童、飛び出して轢かれる。心肺停止の重症。轢かれる。心肺停止。轢かれる。


あぁ。

やっぱり夢かぁ。AIとか銃とか全部嘘っぱち。で死んだんだ。そりゃそうだ。当たり前だ。疑う余地なんてない。ぐったりとしたまま頭痛薬を手に取ろうとした俺の耳に、うるさいモスキート音が突き刺さる。「改変獣が発生しました。即急に対応をし、消去をしてください。」黙れ。いつまでお前は夢物語を語ってんだ。ニュースを見れば理解できることを。しかしAIは叫び続けるように繰り返して言った。いや、そう聞こえたんだ。俺はやっとの思いで頭痛薬を引き出しに戻し、AIの話を聞いた。どうやら改変獣というものが生まれたらしい。もういい、考えないことにする。こいつの言ったことをすべて受け入れることにする。そんで流す。理解する気なんてさらさらない。無理だろ。こんなの。

AI「改変獣をその銃で撃ち、消去してください。消去しなければ、脅威発生として現実改変プログラムを強制的に終了します」まるで脅されているように感じた。

あぁ。そう。だらだらと説明するなよ。

「で、結局俺は何をすればいい。」AI「はい、あなたは改変獣を撃ってください。」わかった。撃てばいいんだな。撃てば。俺は言葉を聞いて、まとわりついた不快感から逃れられるような気がした。

俺は吸い込まれるように玄関を抜け、街灯につられるように公園へ向かった。全ては俺のためだ。子どものためなんかじゃない。

そうして着いた。公園だ。そこには何かがいた。ドロドロとした塊。これ以上近づくことを拒ませる鼻をつんざく臭い。暗くてよく見えないが。そうか。こいつ。こいつかぁ。こいつを殺せばいいんだよなぁ。

次の日、ある清掃業者がドロドロとした不審な塊を見つけ、小さな騒ぎになったらしい。その清掃業者の車内のニュースではこう話されていた。児童飛び出したが軽傷。と

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