サンタクロースを待ちわびて
静動ちゃん
第1話
仕事を終えてパソコンを閉じる。いくつかの物をロッカーに放り込んでオフィスを出れば、冬の夕暮れはとうに終わり、空には星が輝いていた。
輝いているのは星だけではない。
オフィス街を抜けて駅まで来ればイルミネーションが飾られその周囲では多くのカップルが仲睦まじそうにしていた。
自然と溜息がこぼれる。
自分だって、数年前まではあの中にいたのだ。カップルでないどころか、片想いで、相手は同性だったけど。
それでも、クリスマスデート、なんて浮かれていた。”親友”という言葉を隠れ蓑に、毎年、一緒に過ごしていた。
イルミネーションは毎年のように見に行っていた。カラオケに行った後、ショッピングに行った後。受験生のときは一緒に勉強をして、その後見に行った。大学生になってからはお互い1人暮らしになったこともあって、イルミネーションを見に行った後に宅飲みをしたりケーキを作ったりしたこともあった。
ずっと、ずっと、続くと思っていた、のに。
就職を機に上京した彼女は、あっさりと彼氏ができた。
地下に潜って、電車を1駅分乗る。
その間にも、思い出されるのは彼女のこと。
楽しかった日々と―あの時の絶望、喪失感。それから悔しさやら嫉妬やら。
どうして、私じゃないんだろう。なんで、あんなポッと出が。
…仕方のないことだ、あの子の恋愛対象は女ではなく、男だったのだから。
昔から言っていた。”来年は彼氏と過ごすんだ”、”イケメンとイルミデートした〜い”って。
イルミデートなんて喜んでするよ。それだけじゃないよ、その後美味しいご飯もいいホテルも連れていくよ。
―たがら、私にしよう?
何度も心の中で紡いだその言葉が口から出ることはなくて。出なかったからこそ今があるわけで。
たらればなんて、もう何千回も考えて、何千回と虚しくなった。それでもやめられない。
だらだらと思考を回していれば、1駅なんてあっという間だった。
駅から出て歩いていると、親子とすれ違った。
「今日サンタさん、来る?」
「来るんじゃないかな、ずっといい子にしてたもんね。」
サンタさん、か。
ぼんやりとそう思いながらふらりとコンビニに立ち寄る。1人になってからのクリスマスは、毎年コンビニでケーキを買う以外特別なことはしなかった。
2切れ入ったそれを買ってコンビニを出る。
そういえば、あの子は毎年サンタさんのために1切れ余分にケーキを用意してたなんて話してたな。
隙あらば思考はやはり彼女のことばかり。
それを振り切ろうと足早に家に帰った。
「…ただいま。」
それに答える声はない。
部屋は真っ暗で、冷たい空気が澱んでいた。
ちょうどそのタイミングで鳴った通知は、彼女からの幸せのおすそ分けで。
今年も、サンタクロースは来なかった。
サンタクロースを待ちわびて 静動ちゃん @lawbalance27
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます