第3話

《異世界転移》を発動した瞬間、死の森の重苦しい空気が消え視界が反転した。


次に立っていたのは自宅の玄関だった。


「……戻った」


懐かしさすら覚える光景。

靴を脱ぎリビングに入り壁の時計を見る。


――止まっている。


いや違う。


正確には異世界へ転移したその日時のままだった。


スマートフォンを確認する。

日付も時刻も転移した瞬間と完全に一致している。


「一か月以上、向こうにいたはずだよな……」


テレビをつける、ニュースも天気予報も記憶通り。


外に出て近所の様子を確かめても違和感はない。


理解した。


――異世界で過ごした時間は日本では経過していない。

――少なくとも俺が転移している間は。


「……便利だけど厄介だな」


《無限ストレージ》の中には国家レベルでも喉から手が出るほどの資源が眠っている。


神話級装備。

超高純度素材。

金属インゴット。

ポーション類。

ダンジョンコア。


一瞬、考えた。


政府、研究機関、公的組織。


――売却すれば、金の問題は一生解決する。


だが、すぐに首を振った。


「無理だな」


理由はいくつもある。

出所の説明ができない。

鑑定方法が確立されていない。

危険物指定される可能性。

最悪の場合、身柄拘束。


何より一度でも公に知られれば自由は失われる。


「実験材料扱いは御免だ」


政府や研究機関を相手にする選択肢は考えるだけ無駄だった。


焦る理由はどこにもなかった。


「……さてどう動くか」


藤堂遥斗の現実世界での選択がここから静かに始まる。

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