【お題フェス11①】25億度目の正直

蒼河颯人

25億度目の正直

 イーコシペンデ暦2525年2月5日は、僕の誕生日。

 もう少しで25歳になる。

 今年の誕生日はどうやって過ごそう?

 わくわくしながら考えていると、玄関のチャイムが鳴った。


「宅配便でーす! サイン下さい」


 だって。あれ? 何か頼んだっけ? 全然記憶がないんだけど?

 宅配ロボによって差し出された透明な画面に浮き上がった住所と宛名を見ると、問題なく僕宛だった。このマンションの25階のこの部屋だし。

 しばらくするとピコン! と軽快な音をたてて、宅配ロボの背中の辺りにぱっくり空いた大穴から箱が飛び出してきた。


「おっとっと!」


 慌てて受け止めてみると、それは25センチメートル✕25センチメートルのサイズの箱だった。


 一体なんだろう?


 家の中に戻って早速箱を開けてみると、すぽぽぽぽぽーん! と中から色んな色が飛び出してきた。


 黄、橙、黄緑、緑、水色、紫、桃、赤、薄橙、茶、黒、青、白、山吹、深緑、群青色、赤紫、紅、朱、黄土、赤茶、鼠、金、銀、藍……


 数えてみると、ざっと全部で25色の光だった。良く見分けられたな、僕。


 その中から、誰か人影が飛び出してきた。

 その人は、全身が眩いばかりにきらきら輝いていた。

 銀色の服を着ているようだ。

 光を反射して、きらきらしている。

 目がチカチカしてくる。

 髪はボサボサの短髪。体格はガッチリしていて、身長は僕より大きい。

 見上げる位ありそう。

 2.5メートル位ありそうだ。


 ……待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て。


 ちょっと待て。こんなサイズの箱の中、どこのスペースに入るんだよ!? 僕が頭を混乱させていると、その銀色野郎は語りかけてきた。


「はろーご先祖様! 私は『25億年先』の未来から来た〝君の子孫〟デス━!」


 随分と気が遠くなるような遠い未来から来たんだな。

 良く見ると、僕と似たような面差しをしている。

 似ていると言うより、僕の顔を高身長マッチョボディにそのまま張り付けたような感じだ。

 言ってることに嘘はなさそうだが、気になるからどこかで遺伝子検査してみたいと思った。

 (だって、貧相な僕の遺伝子からとは思えない位、イイカラダしてるからさ! しかもどこか頭の中のネジ飛んでそうだし! )


「……それはそれは遥々遠いところから、こんな古代時代へようこそ……」


 としか言いようがなかった僕。この〝子孫〟は、一体どんな目的でうちに来たんだろう?


「実は私、色々研究してまして……」

「どんな研究?」

「本当は25秒で目的の場所へ辿り着ける乗り物を発明したんですよ」


 ……近場で良いじゃないか! どうしてこんな時空のぶっ飛んだ超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超長距離まで来る必要性があるんだ?

 

「だって、25秒しかかかってませんよ」


 持ってきたタイマーらしきものを見ると、25の文字で止まっている。

 僕は思わずため息をつきたくなった。

 彼が嘘を付いていないことは分かった。

 分かったが、どこからどう聞いても「失敗」としか思えない。


「何度も失敗しちゃいまして。今回やっと成功したみたいデス」

「何回目かい?」

「25億回目デス。25億度目の正直って言うのでしょうか?」


 ……どんだけ失敗してるんだ。


「でも、私にとっては願ってもない目的地なのでデスよココ!!」

「……はぁ……」

「ほら、これは私が調べたデータデス!!」


 その25億年先からやってきた「僕の子孫」は、突然空間から何やらディスプレイのようなものを出現させ、押し付けるかのように見せてきた。


 ・ もうすぐ「25歳」になる先祖。

 ・ テストの点で「25点」をとったことのある先祖。

 ・ 出席番号が「25番」だった先祖。

 ・ 「25階」に住んでいる先祖。

 ・ 「25日」が誕生日の先祖。


「これに該当するご先祖様に私、ずーっとずーっと会いたかったのデース!」


 提示されたものは悲しいことに、全て僕のことに該当することだった。


(テストの点まで遠い未来の子孫にまでバレるだなんて、個人情報の保護一体どこに行ったんだ! )


 まぁ、子孫の願いは叶ったようで、それは良いことだ。

 しかし、何故僕なんだ? 


「それで、これからどうするんだ? いつ頃帰るつもりだ?」


 僕は尋ねてみると、でかい銀色の子孫はボサボサ髪の後頭部をボリボリかきつつ、どこかへらへら笑っている。一瞬嫌な予感がした。


「来たのは良いのデスケド……帰り方がワッカリマセーン!」

「何━━━━━━━━━━━━━━━━っっ!?」


 その子孫が言うには、自分が発明した乗り物は、片道分の燃料しかないらしく、また燃料を新たに調達しないといけないと言うことだった。その内容を聞いた僕は、膝から崩れ落ちそうになった。


 ・イルヘベストーン 25 kg。

 ・ヴォンゴラーナオイル 25 L。

 ・ケンメロヴェォウォーター 25 kg。

 ・カルケンガパウダー 25 kg。

 ・アルフィンゲリスノパウダー 25 kg。


 ……全く聞き覚えのない、今僕が生きているところで入手出来るか不明な材料ばかりだった。


「……まさか、君、ここに居座る気では……!?」

「……まさか、マサカマサカマサカ! こんなに可愛〜い子孫を冷たい道端に放り出すとは言いませんヨネ〜ご先祖様〜!!」


 ゴツい大男が急に涙目になって、ひょろがりな僕に抱きついてくるものだから、たまったものじゃなかった。全身骨折したら困るから、止めてくれ! 


「男のクセにメソメソすな!! 燃料集める協力はしてやるから、さっさと集めてとっとと自分の場所に帰れ!!!!」

「そんな冷たいコトを言わないクダサーイ!!」


 そんなこんなで、僕の日常にとんでもないヤツが紛れ込んできてしまった。ずっと平穏過ぎた人生だったけど、まさか25億年も先の子孫と同居生活が唐突に始まるとは思わなかった。


 良く分からなけど、彼にとって僕のいる世界は未知の世界。

 僕にとって、彼が育った世界は未知の世界。

 嫌でも巡り合わせになる運命だったのだろう。

 そう思った。

 かなり強引過ぎるけど。


 僕と25億年先から来た僕の子孫。

 僕達が出会ったことも、未知のこと。


 まぁ、人生何が起こるか分からない。

 一瞬先は闇と言うが、全てが未知に富んでいるのだろう。


  ──完──



 

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