今までこれほどの巨乳を見たことがなかったのである

七渕ハチ

未知との遭遇

「でっか……」


 新たな高校生活が始まって早々、クラスメイトの巨乳ぶりに驚いて呆気に取られた。名前は武出賀むでがさんかと一瞬で覚えて、未知との遭遇に刺激的な毎日を送ることになる。


 クール系のすまし顔をチラチラ眺めて目が合うのは、完全に気づかれているやつか。どうせ不審者と思われているのなら……。


武出賀むでがさん、何か困りごとない?」


「……ないけど」


 初めての会話は一瞬で終わる。問題を解決したお礼を求める作戦は失敗だった。寝ても覚めても、あの巨乳が頭を離れずに悶々と過ごす。触れたいとの気持ちは大きくなるばかりだ。


「何か困りごとない?」


「……ない」


 それからというもの、困りごとを聞くのが日課になった。うざがられる行為も、やめろと言われるまでは続ける意思で一ヶ月、二ヶ月と過ぎていく。


「困りごとは?」


「大丈夫」


 予想外に長く付き合ってくれる懐の深さは、さすが巨乳だ。少しずつ距離も縮まってると感じるのは勘違いだろうか。


「な、何か悩みが……」


「今日は二回目だよ」


 夏服への衣替えには我を忘れて繰り返し聞いてしまう。変態に目を付けられないよう、ボディーガード役を引き受けてもいいのだが。


「ちょっと放課後、時間ある?」


「……」


 そして、まさかの誘いに上手く返事ができず頷くしかなかった。上の空で授業を聞き流し、放課後になってすぐ武出賀むでがさんの元へ馳せ参じる。


「じゃあ、行こっか」


 どこに、なんて無粋なことは聞かないが。学校を出て道を歩く間も黙ったままだと、少々気まずい。


 電車に乗り痴漢に遭ってたらやだなと、ひねり出す言葉を考える。降りた駅が家との途中でこれだと平静を装い口を開く。


武出賀むでがさんは何時ごろの電車で通学してる?」


「ちょっと早いかも。混む前に乗ってるし」


「一緒に行ってもいい?」


「別に構わないけど。連絡先、交換しとこっか」


 よしと心の中でガッツポーズ。学校が休みの日にも困りごとを聞けるようになった。


「ここだね」


 しばらく歩いて一軒家の前で立ち止まる。表札には武出賀むでがの文字?


 鍵を開けて玄関に入る背中を慌てて追う。家に招かれたと分かっても、心の準備が……。


「お、お邪魔します!」


「誰もいないし、くつろいでね」


 失礼を避けた挨拶が空回りし、攻撃力の高いセリフに危うく失神しかけた。ひっひふーの呼吸で落ち着き上がらせてもらう。


 武出賀むでがさんの部屋は二階で白色をメインにピンクが散らばる。実に女の子らしく甘い香りがした。


「お茶持ってくる」


 一人で残されるが物色する勇気は持ち合わせず、静かに戻るのを待った。思考停止に出されたお茶でカラカラの喉を潤し、結構なお手前でとの感謝に笑われる。


「少しドアの外にいてくれる?」


 なぜ、などと野暮なことは聞かないが。理由はさっぱりで天井を見上げた。


 確実に仲良くはなっている。しかし、胸を触らせてと頼むハードルの高さに無力を実感だ。


「もういいよ」


 ドア越しの声に部屋へ入ると、スクール水着姿の武出賀むでがさんがいた。


「どうかな……」


「素晴らしいです」


 あまりの衝撃に被り気味の拍手で答える。ブラボー、その一言に尽きた。とんだサプライズだ。


「収まりが悪くて不格好でしょ? 水泳の授業がない学校を選んだのに、外部委託が始まるみたいで困ってたの」


「あー……」


 そもそも、うちの高校はプールすらなかったっけ。水泳があるんだなぁと適当に担任の話を聞き流してたが。大きすぎる巨乳ゆえの悩みだったとは。


 サイズ以前に横乳がはみ出る様子は暴力的だ。外部のプールとなると、余計な目にも晒されるはず。


「明日、二人で先生に相談しよう」


「ほんとに?」


「もちろん。やっと武出賀むでがさんの力になれるね」


「ふふ、ありがとう」


 さすがに、胸の問題でお礼に触らせてくれはひどいか。今は信用を得るためと我慢する。ただ……。


「参考用に写真撮っていい?」


 二度と拝む機会が訪れない可能性に、データだけでも欲しかった。


「うーん、それって必要かな」


「説得力は生まれる」


「じゃあ、はい。私のスマホ」


「……」


 くっ、浅はかな企みが見透かされる。せめて目に焼き付けながら、パシャリと撮影だ。


「データが欲しかったら、お互いの水着写真を交換ね」


 自分の貧弱な身体だと等価交換に程遠いが、笑える点では中々の素材か。その後は部屋着になってしまい、だらだらと世間話に耽った。


 翌日には早起きして電車で途中合流、一緒に登校する。昼休みを待って水泳の件を職員室へ直談判だ。


「いいんじゃね」


「え、いいんですか?」


 すんなりの了承にマジかと聞き返す。水着写真を提示するまでもなかった。


「代わりに保健の授業だな」


「わたしもそっちでお願いします。泳ぎたくなくて、この学校を選んだんで」


「構わんぞ」


 またもや、あっさり認められる。まぁ、クラスで一人が不参加なのもあれという配慮か。安堵に職員室を出て、武出賀むでがさんと顔を見合わせた。


「言ってみるもんだ」


「ありがとう。たぶん、私だけじゃ悩んだまま学校を休んでた」


「意外と周りは温かいし。話せば味方になってくれるよ」


「誰かが困りごとを聞いてくれたおかげで、その優しさに気づけたかも」


 うざい行為がプラスの方向に働いて良かった。


 日々の気温上昇と共に水泳の授業が始まる。皆はバスでプールに向かい、二人で教室に残った。


 保健の授業はいきなり性に関する内容で気まずくなるが、武出賀むでがさんは多少の下ネタを許せる器量を持つと判明した。


 勢いで胸を触らせてとも頼めずにいるが、巨乳で釣れば配信でお金を稼げそうなど、やらしい冗談を言い合える仲にはなった。


「ねぇ、ちょっと困ってることがあるんだけど」


「お礼におっぱいを揉ませてもらえるなら、喜んで相談に乗るよ」


「そんなの、いつだって受け入れるのに」


「……」


「でも、今回は問題が解決してからね」


 色っぽい笑みにドキリとする。一枚も二枚も上手な武出賀むでがさんの魅力は、まだまだ未知に溢れていた。

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今までこれほどの巨乳を見たことがなかったのである 七渕ハチ @hasegawa_helm

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