愛の果て
aoinishinosora
第1話 旅
静かに横たわる白く美しい僕の愛する人。もう、僕の為に微笑んではくれない。
初めての2人での旅行。函館を選んだのは僕だった。付き合って半年、何となくお互い結婚も意識していたが、実家暮らしだった事もあり、朝まで一緒にいる事はなかったからこの旅行は凄く楽しみだった。
「100万ドル見に行こう」
計画はドンドン決まってホテルの予約、新幹線の予約、当日の天気、完璧に整った。
「美帆、函館の行きたい所ってある?」
「うーん?夜景は絶対見たい、後は五稜郭行ってみたいし、後はあの坂道から海見える所行ってみたいし、うーん美味しいのも食べたいよね」
「あ、八幡坂?」
美帆は嬉しそうに僕に微笑みながらゆっくりと答えた。僕は頷きながら〝函館 食事〟と検索をした。
取り敢えず、お昼に海鮮丼を食べて、夜はジンギスカンを食べる予定にした。美帆も画像を見て美味しそうとはしゃいだ。
旅行は計画を練っている時も楽しい。沢山のお土産もリサーチしていざ、出発。
僕等は予定通り、海鮮丼を食べてその美味しさに笑顔が溢れた。何度も美味しいと呟く美帆を見て幸せな気持になった。
赤レンガ倉庫を一通り見て、潮風を満喫して八幡坂へ行って2人で写真を撮った。
「本当、最高。凄くキレイ」
美帆は笑顔が止まらない。僕は何枚も美帆の写真を撮った。
ホテルにチェックインをし、エレベーターまでの廊下を歩く。ウィンドウにはウェディングドレスが飾ってあった。何となく僕は恥ずかしくてそれを見ることが出来なかった。が、美帆は瞳を輝かせてそれを見ていた。
「キレイ……」
美帆が呟くと近くのドアが開いた。
「あの……。お客様……失礼ですが、お時間少しよろしいでしょうか?」
僕等2人は顔を見合わせ小さく頷いた。
話を聞くと、模擬挙式モデルが病欠で来れなくなり代わりの人を探しているが捕まらなく困っているらしい。で、僕等にそれをして欲しいと言うのだ。
「プロのモデルでは無くて一般の方にお願いしていて、何て言えば良いのか……」
「素朴な感じ?」
僕はそう言葉を挟んだ。ホテルの方は申し訳なさそうに頷いて、
「お願いできませんでしょうか?」
「少し2人で考えさせて下さい。5分待って下さい」
「僕等で良かったらモデルします」
「ありがとうございます。あの、では、早速こちら契約書になります。サインをお願い出来ますか?」
僕等はそれを読んでサインをした。模擬挙式と、パンフレットにも写真を使うと言う事だった。出来れば今から衣装合わせ等をして明日の朝6時スタートしたいとの事だった。
旅行の予定には全く無い事だが、美帆が凄く喜んで居るし僕も美帆のドレス姿を見てみたかった。
用意されていたドレスのサイズは美帆にぴったりでドレスの雰囲気も美帆にぴったりだった。とても綺麗で僕は真っすぐ美帆を見ることが出来なかった。僕等は今夜のエステのチケットを受け取り、打ち合わせを簡単にしてやっと解放された。
「ねぇー凄い事だよね。こんな事無いよね!モデルだよ!明日も楽しみだよね」
僕等はジンギスカンを食べながら今日の奇跡のような出来事を沢山話した。旅行の予定は狂ったがこれも旅の思い出になるだろうし……。何より美帆が楽しんで居る。最高の思い出になるだろう。
昨夜は少し早めに寝たから僕等はスッキリ起きることが出来た。体調はすこぶるよい。美帆も調子は良さそうだ。
挙式の段取りをもう一度おさらいして、2人それぞれ着替えとメイクが始まった。
童話の中のお姫様。美帆はまさにそれだった。綺麗で可愛くてキラキラしていた。台本通り僕等は熟した。最後の誓いのキスの後に美帆は本当にドラマで見るような美しい涙を流した。
薬指の爪に付けたストーンよりも大きくて、指に入れた指輪に付いていたダイヤよりも輝いていたその涙に会場の皆が釘付けになった。
美帆が何処か遠くに行くようで、僕の知らない美帆になるようで少し怖くなった僕は、挙式で使ったこの結婚指輪を買い取れるのか聞いていた。
「はい。買い取りは可能です。サイズもお客様のサイズに合わせておりますし、お時間がかかりますが何か刻印入れることも出来ます」
刻印は入れずにそのままのものを僕は買い取り自分の荷物の中にしまった。
今夜、夜景を見たら美帆に渡そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます