まおーてんせい!

@kabrakatabra

第1話 戦いの果てに

 雷鳴が轟き、大地が裂け、世界そのものが断末魔を上げていた。

 燃え落ちる城砦の中央に、剣を杖のように支えて立つ勇者と、その前に黒いオーラをまとい静かに佇む魔王だけが残されていた。


 無数の仲間は倒れ、味方の叫びももう届かない。


「……終わりにしよう、魔王。

 これ以上の犠牲は、もうたくさんだ」


 勇者は血に濡れた剣を握り直し、震える足を踏ん張る。


「終わりを望むなら、力を示せ」


 魔王は静かに告げただけだった。

 しかしその声音には、覇者としての揺るぎなさがあった。


 勇者は歯を食いしばり、顔を上げる。


「正義も悪も……こんな世界では意味を失った。

 ならばせめて、生き残る者に未来を託す!」


 聖剣に光が集まり始め、勇者の身体が淡い輝きに包まれていく。

 生命力そのものが燃えているのが一目で分かった。


「聖なる光よ、我が命を喰らい、その力を顕現せよ……!

 《裁断の閃光〈ディヴァイン・レクイエム〉》ッ!!」


 眩い光柱が天を貫き、大地を震わせる。


 対する魔王もまた、右手を静かに掲げ、深淵を呼び出した。


「ならば我も応じよう。我が魂の最深より……這い出でよ《終焉の深黒〈アビス・ノヴァ〉》!」


 暗黒の渦が世界を呑み込み、光とぶつかり合った瞬間——


 世界が悲鳴を上げる。

 光と闇が衝突し、空は裂け、大地は反転し、時空そのものが震えた。

 その先には青い星が──


 ◆


『フハハハハハ!

 よくぞ我の元まで来たな、勇者よ!』


『魔王!

 俺はお前を倒し、世界の平和を取り戻すぞ!!』


『来るが良い!

 我が覇道と貴様の願い──どちらが上か、雌雄を決しようではないか!!』


 激しい戦闘が描写されるアニメ。

 それを二人の少女が食い入るように見ています。


「いけ! まおー!!」


 少女の一人は魔王を応援しています。


「ほら”まり”も! まおーをおうえんして!

 うおー! まおーがんばれー!!」


「う、うん……がんばれー」


 まりと呼ばれた少女も、恥ずかしそうに応援します。


 やがてアニメは終わりました。

 勇者と魔王の戦いに決着はつかず、次回へと続くようです。


「いいところだったのに!」


「また来週だね」


「らいしゅうは、まおーがかつ!」


「……そうだといいね」


 苦笑いを浮かべながら、まりちゃんは答えました。


(魔王は勇者に敗れる宿命──どの世界でもそうなのかな?)

 

「真緒ちゃん、真里ちゃん。

 晩ご飯できましたよ~」


 二人を呼ぶ声がします。


「あ、ははうえー!

 ごっはんだ、ごっはんだ──」


 真緒ちゃんは嬉々としてテーブルに着きます。

 今日の夜ご飯は何でしょう。


「まおのすきなハンバーグ!

 ……ははうえー、にんじんはいってない?」


「フフフ……入れてないですよ……」


 お母さんは元々細い目をもっと細くし、微笑んでいます。


(……絶対、人参入ってるやつだ)


 真里ちゃんは台所を見ました。

 そこにはミキサーがあり、中はオレンジ色に染まっています。


 そんなこととは知らず、真緒ちゃんはパクパクとハンバーグを食べています。

 ハンバーグにフォークを刺し、豪快な食べっぷりです。


「んー! うまいっ!

 ははうえのハンバーグはぜ、ぜ……ぜっけいだな!」


「それを言うなら”絶品”ね」


 真里ちゃんが透かさず訂正します。

 

「ぜっふぃん!」


 もぐもぐ口を動かしながら、真緒ちゃんが復唱しました。


「真里ちゃんも美味しい?」


「うん、美味しいよ」


 真里ちゃんはハンバーグを一口サイズに切り分け、少しずつ食べ進めます。

 人参が入っていると知っていても、臆せず食べられる大人な子どもです。

 

 そんな二人をお母さんが見守っていると、玄関に気配が──。


「ただいまー」


「あ、ちちうえかえってきた!」


 この家の大黒柱が帰宅したようです。


「おかえりなさい、真聡さん」


「おかえりー!」「おかえりなさい」


「ただいま! 詩緒里──」


 真聡は出迎える詩緒里さんを抱き寄せ、口付けをします。


「ただいま! 俺の天使たち──」


 続けて真緒ちゃんと真里ちゃんの頬にキスをします。


「お! 今日はハンバーグか!」


「すぐに温めますね~」


 そう言って詩緒里さんは再びキッチンへ。


「ちちうえー、きょうはな──」


 絵に描いたような幸せな家庭。

 これはそんな大仏家の双子の姉妹、真緒ちゃんと真里ちゃんを見守る物語です。

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