毎週土曜、聞こえてないから告白するの

緑ノ暇

毎週土曜、聞こえてないから告白するの

毎週土曜日午前8時。

図書館とも公民館ともどちらとも言えない、小さな町の一角へ強い風に吹かれて

乱れた前髪を直しながら歩いて行く。



学習席の前から2番目、いつもの場所。

今日もヘッドホンをしながら自習する君の後ろの席に座る。


少しだけ茶色の短髪も、私と違って大きな背中も、よく分からない難しそうな参考書を勉強する姿も。

どうしてか分からないけどすごく好き。

話しかける勇気はないくせに、独り言として知らず言葉が出てきてしまう。




「おはよう」


「今日は風が強いね」


「昨日食べた新作の肉まんが美味しくてね」



小さな声は、ヘッドホンの音楽にかき消されてあなたに届くことはない。

サラサラと聞こえるペンの走る音は、君の勤勉さを物語っているようで。


でも君と違って勉強が苦手な私じゃ、30分机に座って自習するだけで限界なんだ。

8:30を超えると入り始める近所の方々。

幸せな時間の終了の合図。





「付き合ってください…!」


「…え」




同級生からの思わぬ言葉に思わず体が硬直する。

無言の私を察してか、慌てるように言葉を繋いだ。



「俺、意識されてないのは分かってるけど。お試しで1ヶ月…、1週間とかでもいいから、どう、かな」


「………ちょっと、今すぐに返答は出来ないから…考えてから答えるね」


「…分かった、待ってる!」




運動部らしいくしゃっとした太陽のような笑顔で返される。


断られるかもしれない。それでも相手に想いを伝える姿はどうにも眩しくて、とても凄いことで、羨ましくて、

…少しだけ憎たらしい。




好きな人がいる、って言えばいいだけだった。

言えなかったのは、報われない恋を終わらせたかったからなのか。






「おはよう」


いつもの土曜日。いつもの席。いつものように挨拶する。



「…昨日、告白されたんだ」


「お試しだけでも、って言われちゃった」


「告白を出来る人って凄いよね。それだけで尊敬」


「私は…怖くて出来ないから。だからもうここには来ないことにする」


「ばいばい」




鞄を持って歩き出した瞬間、手を掴まれる。


驚いて横を見ると、顔を真っ赤にした君がいた。




「……このヘッドホン、集音機能があるんだ」


「えっ?」


「君の小さな『おはよう』も。告白されたって言った時の震えた声も。……ページをめくる音まで、全部聞こえてた」


「う、そ」


「えっと…まずはお友達から始めませんか。だから来週も、またこの場所で」





毎週土曜日午前8時。


私は今日も、前髪を気にして歩いていく。

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