うわっ、クソみたいな夢だ!

タナカァ

最悪な目覚め


はあーーーーーーっ、

きんも!!!!!



ゆっくりと開けた目に反して、心は焦燥感でいっぱいで血がドクドクと胸の方で聞こえてくる。視界にとらえなくてもわかる真っ暗な空間に足の先にあたる暖かさ。


はあ…

ただ気持ち悪い。

なんだよ、これ。


夢で見た女と男、その影がまだ脳にこびりついている。起きてさっきのがリアルではなかったとわかっていたけど、…なんか耐えられなかった。



この気持ちを変えたいなあ、で寝室から出てトイレに向かう。その際何気なく隣の男にキスをする。

あんだけ盛り上がった昨夜の事を、そこそこ楽しんでいた数ヶ月を…全て書き換えられてしまったような気持ちでキスをする。


その男は私のちょっとした動きを迎え入れるようにキスをする。


あっ、起きた。



少しの罪悪感と口の中の水分がなくなったような気持ち悪さだけが残ってた。



寝室から出てすぐ右にトイレはあった。

真っ暗なリビングは光をつけなかったが、トイレの電気はつけた。寝室から離れてるので彼を起こさなくてすむだろう。そう思ったんだ。




さっきまでのは夢。

そんな事を確認するように思いながらトイレットペーパーに手を伸ばす。ただ落ち着きたかったから来たこの場所にはあまりやることがなかった。意外にもこの場所の明るさに不快感はなくてどちらかと言ったら落ち着くような不思議な感覚だった。




ああ、彼女は…。

高校同級生の"初音ちゃん。"




なんで今更…

もう12年も前の記憶を探るように思い返す。




彼女は何となく忘れられない、強烈な印象があった。それは私にとってもだけど、もしかしたら彼女にとってもなのかもしれない。







そう、私は彼女から逃げ出した。

残酷にも理由も話した。

高校の時だ。

若き思春期にそんなものだと…言い訳してたのはいつまでだったか思い出せない。



私の記憶では逃げ出しただけだ、でも私の心はいじめてしまったかも。そんな…罪悪感も感じていたんだっけ。




でも何で今更…初音、貴方が出てくるの?













私は良く言うとスポーツ少女だった。短く切ったショートカットはしっかりルールの規定内。少しだけ勉強が出来なくて、誰とでも友達のお調子者。私たちが通っていた高校は県内でも有数のど真面目の進学校で私みたいな人はそんないなかった。


ボーイッシュな私はよくある女子にモテるとかは無かったけど、ふざけたノリで身内でキスゲームしたりとかはあった。そんな時に呼ばれたりしてふざけつつもキスした後実はドキドキしてたなんてあったりもした。女の子に対して憧れと嫉妬でごちゃ混ぜになってた思春期時代を過ごした高校生だった。




基本的にクラスには揉め事なんてなかった。各中学校の真面目が集まったこの学校はやることは勉強に部活それぐらいしかなくて、毎日の話題でさえあまり変わり映えもしない学校だった。


しかし、私のクラスではざわつくような出来事が起きていた。同じ中学校卒の男子がクラス内で彼女を作った。その子が初音ちゃんだった。初音ちゃんは小動物のような小柄な体型に、毎日黒髪をアレンジしたおしゃれな子で、目は大きく顔立ちは整っていた。









なぜ夢に出てきたか、少しだけ分かっていたんだと思う。彼女に言った嫌な言葉がチクチクといまだにチクチクと刺さっていた。喉の奥にある小骨のように中々取れないようにだっけ。








「なんで、何でそんなこと言うの。」



      ・・・・・・

『だって、、生理的に無理。本当にごめんね。』







なぜざわついていたか、それは初音ちゃん達カップルがクラス内で見せつけるように毎日いちゃついていたんだ。休み時間のたびに集まり、隠れるようにキスをして、でもバレてて。お昼ご飯も常に一緒。あーーんなんてしちゃって、私たちの学校ではとても異質だった。

恋愛は基本的に隠すものそんな真面目な学校だったからだ。別に違反してるとかではないんだ。ただ…私にとっても、他のクラスメートにとっても多感な時期に勉強しかない話題の中でとても異質だった。




そんな彼女だからこそか、友達は一切居なかった。いつもその彼氏と時間を共にし、その彼氏と女の子が喋ろうものなら漫画の変な恋愛キャラクターのように嫉妬してますみたいな感じで割り込んできた。





そして私は正義感が強かった。困ってる子、いじめられてる子は放って置けないそんな漫画のような正義感を持っていた。だから、私が体育で1人になるその子に手を差し伸べるのは普通だった。他の子だって助けてきた、だから普通だった。



あっ、しまった。

そう思ったのは次の日の事、私たちのグループに入れてあげて…初音は彼氏ができたかのように私に懐いた。連れションは当たり前、移動する時には腕を組みたがり、お昼も彼氏と食べる機会を減らして私たちの方に来た。


初音は顔が良かったから最初の方は少しだけ気持ちが良かった。可愛い女の子に対して並々ならぬ感情を持っていた私には可愛く思えていた。


でも長くは続かない、ぁってそれ以上に周りからの目に敏感だった。




「あの子…大丈夫?」

「最近仲良いな、初音と、意外だったわ。」

「ってか初音ちゃん、彼氏が変わったみたいだね…。」





『可愛いよね』



そんな言葉を返したのは何人までだったっけ、話題がなかったクラスで私たちの関係が変わっていたのは次の日のにすぐ分かった。友達が心配そうに野次馬のように私に声かける。


でもその話をした瞬間、きょとんと可愛い顔をして割り込み私の腕の中に入る初音。


初音…空気が読めないってレベルじゃないよ。






ある時初音は彼氏と別れた。クラスで情熱的な恋愛をしていた彼らからは思えないほどあっけない別れだった。



彼女は言った。

「でもいいんだ〜。私には◯◯ちゃんがいるから!」





わーーーわーーーー!!!!!!

わーーーーーわー!!!!!!!!



ある時私は爆発してしまったと思う。

「初音と付き合ってんの?」



初音は嬉しそうに可愛く頬を染めながらように、「付き合っちゃう?」

『あはははは』



って、

私の少しだけ女の子が好きって芽生えてた感情が実はあったからとても怖くて逃げ出すように…。


あっさりと初音を切り捨てた。






『初音。私無理かも。』


「…急にどうしたの、…大丈夫?」



その子は困ったような小動物のような顔を作って私に問う。毎回言葉を溜めるような仕草さえ、怖く感じてた。気弱そうな、実はそうでもないのにさ。



『なんか……距離おこう。』

「…えっ。なんで!?!理由は急に、私なんかしちゃったなら謝る。そんなこと言わないで、なんで。』



『だから、、生理的に無理なんだって!』






そのあとの事は何も覚えてない。不自然に染まった恐ろしいものを見るような目で、とか写真のように罪悪感と共に切り抜いた表情は薄らと記憶の片隅にあるけど、高校生の時にたまに夢に出てきたぐらい。





大学を卒業して、初音ちゃんがイケメンでお金持ちの彼氏が出来て高級車を乗り回してるって噂を聞いた。一度会ってみたけど別人のようだった。あの時の可愛らしさはなく東京に染まった女の子って感じだっけ。




でもその時じゃない。

夢の中では、

あの高校生の頃の初音が私の今の彼氏の隣で寝ていた。浮気っていうより、公認のって感じだった。あの時のかわいらしい顔で私に「大丈夫?」ってこれから貴方の彼氏とセックスするけど…ってあの時のように聞いてきて、私は『うん』って答えてその場を離れた。




ああ、クソみたいな夢だ。

でも何年も会ってない初音の夢を見た。

私は確かにあの時、、。






私はトイレから戻って、彼氏にキスをする。夢の中であの初音にキスしてた男にキスをする。愛情なんてなくて、どちらかと言ったら生理的に無理だったけどキスをした。







ああ、なんで今更思い出しちゃったかな。



本当にクソみたいな夢だ。





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