創作短編
白雲ガイ
雷と思い出話
おばけの仕事はなんだろな。だって、ニンゲンの目には見えないもの。少しくらい怠慢、怠ってしまったって関係ないよね。だから、とあるおばけは旅に繰り出しました。
行ってみたい場所はあったにはありました。俗世に属していた頃、ずっと焦がれていた場所があったみたい。いつ、どんな時?それは分からないけど。とにかく行きたい場所があるみたい。この姿になるなる前は、行くのは大変だったけど、この身体になってからはずっと楽。ひとっとびで行きたいところまで行けてしまうの。
「ここが……!」
それはそれは古びた廃城でした。なんでだろう。ずっと、ずっと。来たかった場所。なんでだろう。中に入ってみれば分かるかもしれないね。だから、ヒョイと入ってみました。
廃墟になった城は、まだ綺麗だった。赤い絨毯は、コケが生えてるところと生えてないところでモザイク模様。これも悪くないね。ううん、森と一体化って感じがしてとても素敵。とっても広いから、ゆっくりしちゃおう。
お庭みたい。たくさん草が生えてる。木も。だけど、やっぱり変だね。仄暗くってなんだかやな感じ。ツタが地面を覆ってる。でも、不思議だね。懐かしいんだ。これってもしかして俗世の頃の記憶?安心する。ドキドキする。影が存在を覆い尽くしてる。とっても素敵。誰もおばけのことなんて見ていません。だって、おばけだから。でも、雷が鳴った。早く中に入らなきゃ。
今度は可愛いお部屋に来た。壁紙は崩れてる。なんだか、そうね。かわいいかも。かわいいってなぁに?でも、これが多分かわいいってことだよ。キラキラしてる物もあるんだ。文字は読めない。これは紙なの?たくさん重なってる。ペンだよね。何か書かれてる。だけど、読めないや。だって、にじんで何書いてあるかわっかんない。黒くシミになってるもの。だから、よむのはやーめた。早く次の場所に行こう。だって、読もうとしても雷の音がうるさいんだもん。
大広間っていうのかな。大きな場所にやってきた。シャンデリアが真ん中で崩れ落ちてる。床にね。上から落ちてきたみたい。だって、天井にはチェーンがぶら下がってるもん。一体どうやってこんなに重いものぶら下げてるんだろう。だから、おばけは上に登りました。その時
身体を貫くくらいの激しい何かがおばけの視界を横切っていきました。
なんだろう。これ。感じたこと……ある?関係ないか。その一瞬だけだったので、おばけは気にしませんでした。気になったことには貪欲なんだ。だから、上に上がってみた。けど、特に変わったことはなかったな。変わったことは。だから、また下に降りて広い場所を見回した。そうそう、この光景。ずっと望んでいた。でも、
どうして?
考えたってわかんないか。だったら、いーや。もうこれはおしまい。次の場所に行こう。雷の音が大きくなってきちゃった。早く見終わって帰らないとね。
廊下を歩いていたら、お顔が描いてある壁があった。これ、知ってる。絵画でしょ?これはね、どういうことかわかんないけど、知ってるんだ。ジッと見たらね、目が合うの。光がこもらない絵の中の人間はおばけの存在をゆっくりと認識したようでした。わ!こんにちは!あなたはだぁれ?でもさ、絵はニンゲンじゃないんだっけ。喋らないか。それが当たり前。おヒゲがすごいのね。次の人はきれいな……女の人。どうしてだろう。この人、
知ってる気がするのね。
すると、外で雷の音がしました。すると、おばけの身体は裂けそうなほどに鋭い痛みを蓄え始めました。きっと、何かのタイミングでその痛みが世に放たれるかのように。おばけは焦りました。だって、この姿になってから痛みなど感じていなかったからです。久々の感覚に存在するはずのない心臓が痛む気がしました。ええ、心臓が。心臓ってなんだっけ。でも、同じ場所にとどまっちゃいけない気がする。早く、早く早く早く。ここから離れなくちゃ。このあとどこに行かなくちゃいけないのかな。どうしよう、雷の音、大きくなってる。早く行かなくちゃ。どこに?どこでもいいから。
次に着いたのは馬小屋だった。馬小屋に馬なんていないよ。だって、ここは廃墟なんだから。何かに導かれるようにしておばけは馬小屋の中に引き込まれました。やっぱり。見たことある。ここにワラが置いてあった。ほら、やっぱり。腐って真っ黒になったワラ。これ、きっとワラ。ワラってなんだっけ?だけど、配置が分かる。ここには鞍があるはずだ。え、鞍?鞍ってなに?でも、今鞍って。またそうしたら雷が鳴った。身体が痛くなる。ないのに。心臓なんて。早く、早くここから離れなきゃ。でも、まだやらなきゃいけないことがある。奥に確か舎長室があって。そこに行かなきゃ。だから、舎長室に行って、扉を開けた。それで、なにをしなくちゃいけないんだっけ?忘れちゃった。分からなくなっちゃった。でもいいや。痛いし。早く次に行こう。
次は地下。ずっと楽しみだったんだ。なんでだっけ。でも、楽しみだったんだ。長いクルクルの階段を降りていく。でも、宙にずっと浮いてるから落ちてる。そうして着いた先は、監獄。手枷の鉄臭い匂いがしてる。気がする。奥に向かったらね、椅子があった。椅子。この椅子、なんかいつものと違う?四つ脚がない。床に取り付けられてる。なんでだろう。何のために?ベルトもいくつもある。なんだか、とても気味が悪いのね。ちょっとずつドキドキしてる。心臓もなければ血も流れてないのに。なんだか視界がふわふわしてきた。わかるよ。
おばけはここにいてはいけないと思いました。
地下にいるというのに雷が鳴っていました。だから、もう一度、できるだけ広い場所に。そうだ、あの大広間みたいなところ行こう。あの廊下は通らないでおこう。なぜかって、みんなおばけのことを嫌っていたように見えるからです。早く行かなきゃ。だから、雷が鳴っていてもお構いなしに外に出た。濡れるなんてことはない。だって、雨は降ってないもの。だから、一生懸命飛んでいった。そして、大広間に着いたときに
周りが真っ白になるほど大きな雷が近くに落ちた。
思い出した。おばけは思い出しました。ずっと蓋をしていた記憶に。俗世にいた頃の記憶。
生き物たくさんのお庭。
あの子ども部屋。
大広間のシャンデリア。
廊下の女の人。
馬小屋の舎長室。
地下室のおかしな椅子。
もう一度戻ってきた大広間のど真ん中。
ハッキリと思い出した。無我夢中に飛び回っていたから思い出せなかった。そうだ。そうだった。おばけは胸をなでました。当然、そこには何にもありません。しかし、しっかりと、焼けるような痛みがおばけを襲いました。視界がぐらついている。だって、
僕はここで殺されたんだもの。
僕のお家だったこの廃墟。子ども部屋は僕の部屋。あの本。きっと僕の日記だ。確かあそこで
メイドに斬り殺されそうになったんだ。
だから日記の黒いシミは僕の血。なんの本だったっけ。忘れちゃった。だって、必死に逃げたんだもん。その後に大広間に行って、その後に廊下。そうだ、あの女の人。あの女の人は
僕のママだ。
廊下を走ってたらまた別の誰かが追っかけてきたんだ。きっとあのメイドの仲間。だから、昔から仲良くしてくれた舎長さんのところに行ったんだ。馬小屋。舎長室。だから見覚えあったんだ。だって、あの馬鞍、舎長さんがいつも使ってるやつだったもん。でも、舎長さんいなかった。だから、ほんとは入っちゃいけないところだけど地下室に行ったんだ。だけど、ほんとに怖いところだった。こんなところにいたらいけない。だから、パパは言っちゃダメって言ったんだ。人目を避けて抜け出して、また大広間にいった。そしたら、上からシャンデリアが落ちてきて――
気づいたらこれ。
思い出した。その後も。僕はその後メイドを同じ方法で殺したんだ。部屋で睨んでいたら勝手に苦しんだから、同じ方法でやり返しちゃおうって。思い出した。そして、シャンデリアはもう使えないからあの椅子。あれ、本で見たことがあったんだ。
電気椅子。
電気椅子の使い方は分からなかった。だけど、不思議なの。勝手にメイドは自分で座って電気を流し始めて
死んだ。
だからだ。ここに来なくちゃいけないって思ったの。あのメイドがどうなったのか見たかったから。なーんだ!スッキリした!それだけのこと!だって悪いことしたんだもん。僕を殺しちゃったんだもん。雷は相変わらず鳴ってるけど。僕が死んじゃったときとおんなじだ。神様もきっと褒めてくれるよね。だって悪い人やっつけちゃったんだもん!いけないんだ!
だって悪いことしちゃったからね
〜オーダー〜
【おばけ】、【雷の夜】、【違和感】を使って、ホラージャンルの作品を書いてください
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