『原稿から逃げて高級旅館に来たのに、爆睡して目覚めたら枕元に担当編集が立っていた件』

志乃原七海

第1話:『絶景を背に、至福の二度寝』



***


### タイトル:『絶景を背に、至福の二度寝』


ようやく辿り着いた、河口湖畔の老舗旅館。

都内の渋滞を抜け、チェックインを済ませて部屋に入った瞬間、目の前に広がっていたのは――窓枠に収まりきらないほどの巨大な富士山だった。


「うわぁ、すごい……! 本物だ」


夕暮れ時の蒼い光に包まれた霊峰は、息を呑むほど神々しい。

本来なら、ここですぐに浴衣に着替えて「さあ、自慢の露天風呂へ!」となるところだ。サイドテーブルには、すでに準備万端の浴衣とタオルが畳んで置いてある。


けれど、長旅の緊張が解けたのか、ふかふかの真っ白な布団を見た瞬間、強烈な睡魔が彼女を襲った。


「ちょっとだけ……5分だけ横になろうかな」


そう呟いてベッドにダイブしたが最後。

5分で済むはずがない。


窓の外では、富士山が静かに空の色を変えていく。

部屋の中は暖色のランプが優しく灯り、静寂だけが満ちている。

最高の景色をバックに、まさかの爆睡。


温泉? まだまだ。

懐石料理? まだお預け。


今はただ、この贅沢な空間で泥のように眠り、日々の疲れをリセットするのが先決だ。

目が覚めた時、窓の外には月明かりに照らされた富士が見えるだろうか。その時こそ、冷えた体を温泉で温めよう。


「……すぅ、すぅ……」


彼女の寝息だけが響く部屋で、富士山はずっと静かに見守っている。


***


**(状況まとめ)**

* **現在地:** 富士山が見える老舗旅館の一室

* **現在のステータス:** 移動疲れにより完全ダウン(爆睡中)

* **次の予定:** 起きたら温泉、その後ご飯

* **教訓:** 絶景宿の布団は、温泉よりも引力が強い。

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