レスト・レリック・リコレクション

某氏奴

第一話 追憶 -Recollection-

 発掘という作業は精密な手さばき、価値のある物と普通の石を見分ける観察眼、そして何より新しい発見をするまで石や岩を掘り続ける根気強さが求められる。例えるならば、富や名声を得る対価として地球から与えられた試練と言ってもいい。

 そして今、僕はそんな試練を乗り越えて、また一つの遺物をこの広大な砂漠から掘り出そうとしていた。この未知が既知に変わる瞬間のワクワク感だけでも、暑く疲れる発掘作業を続ける原動力になっている。さあ今回は何が出るのやら……。一級遺物はまずありえないにしても、二級遺物が出れば相当な儲けものだ。そうこう思考を巡らしている内に、僕は慣れた手つきで目的の遺物から砂を払い、慎重に持ち上げその形を確認した……。


 【タブラ・ラサ】 三級遺物

 薄い板の形をした遺物。特に使い道はない上、三級遺物の中でも発掘報告数が多いため、市場では最低クラスの価格で取引されている。


「まーーたタブラかよ!!!」


 今週3つ目の『タブラ・ラサ』を地面に叩きつけたい衝動を抑えながら、僕は大声を上げた。遺物を週に一個見つけることが出来れば平均的という中で三個見つけているという事実は喜ぶべきなのかもしれないが、いくらなんでも三つとも一番のハズレを引かされると悪態もつきたくなる。そんな僕の様子を見つけた同期のデルタがからかいに来た。


「いや~カイ殿は相変わらず、技術はあるのに絶望的に運がないでありますな!」


「この前二級遺物壊した奴よりは腕があると自負しているよ、デルタ」


 遺物のランク付けは予想される埋蔵量だけでなく、耐久性、外見、人類の発展に対する貢献度などの複数の観点から行われる。デルタは数週間前に運よく二級遺物である『ルーシダス』を見つけることが出来た。なのだが、『タブラ・ラサ』と同じような力加減で掘り出そうとした際に、デルタは衝撃に弱い『ルーシダス』にうっかり発掘道具をぶつけてしまい、粉々に割ってしまったのだった。結局あれは三級遺物として扱われたんだったっけ……。


「あっ、それは言わない約束であります!」


 僕の返しに対してデルタはばつが悪そうに答えるが、そんな約束をした覚えはない。……なんてため息をついた時、作業終了を知らせる通知が視界にポップする。一歳の頃に注射したナノマシンによってスケジュールやバイタルなどの重要な情報は全て何か端末などを見ることなく、というより瞼を閉じていようが分かるようになっている。まあ既に五年以上はこの作業をやっているため、そろそろ終わりの時間だろうという予測は立てていたのだけれど。


「おっ、もうこんな時間でございますか。カイ殿! すぐに道具を片付けてお昼ご飯といきましょうぞ!」


「そうだなぁ……」


 そうして僕らが道具を片付けていると、先ほど『タブラ・ラサ』を発掘した場所から一瞬、一筋の光が見えたような気がした。


(なんだ……あれ……?)


「どうかしたでありますかカイ殿? 早くしないと美味しいものが無くなりまするぞ?」


「今行く!」


 けれども他の人には見えていなかったらしく、僕は気のせいだと思ってデルタに急かされる形で食堂に向かって行った。


 ---


 ここはジェネシス・ユニバーサル・コーポレーション(GUC)のグループ会社の一つであるケクラ社が保有する学校だ。

 僕は生まれたときにはここにいて、物心がついたころから教師の指示の元、虹鉱石やら遺物を掘らされていた。というのも大戦が終わるころに起こった第五次産業革命によって、今までとは逆にどこでも人手がより必要になった。そして同時に遺伝子技術の発展によって人を効率的に増やし、育てる土台が出来上がったもんだから、この頃には大体の企業は僕がいた、あるいはより効率を優先したを持っていて、若いうちから半ば強制的に労働のようなものに従事させていたんだ。 

 こう聞くと児童労働の闇を暴く特番のように思えてくるが、当時を振り返ればそこまで悪く無かったように思う。衣食住は保証されているし、滅多なことでは人が死ぬこともなかった。なんなら学業を修了してきちんと卒業すれば、学校を管理している企業に優先的に就職する権利を得ることが出来るため、将来の心配もしなくていいという訳だ。


 この時の僕の一日は大体いつも同じ流れだった。


 決まった時間に起きて


 発掘作業をして鉱石とたまにありふれた遺物を見つけ


 食べられなくもない味の圧縮食を食べて


 答えの分かり切った問いに答える授業を受け


 年中蒸し暑い寝室で眠る


 別に平坦な日常が悪いものと言うつもりはない。いや正確に言えば当時の僕はこんな日常にとても退屈していた。なにせナノマシンをシミュレーターに接続することで仮想的な世界で遊ぶことは出来るのだが、現実では学校から出ることは基本許可されていない。そもそも外出したところで学校の周りは砂しかない上に、さらに離れれば汚染区域という人が住めない空間が広がっているので、生身では他の都市に行くことも叶わない。

 だから僕は時々悪いことをしていた。それでいつか教師にばれて、懲罰を受けてもいいとすら考えていた。まあ今考えるとが悪いことだなんて、鼻で笑ってしまいたくなるのだけど。


「セキュリティ解除よし 位置情報偽装よし 荷物よし」


 施設のセキュリティシステムには明確な脆弱性があり、夜間の監視についてもハッキングするまでもなく全く見つからずに外に出られるルーチンが存在する。ここまであからさまだと、まるで背伸びした子供を外で遊ばせてストレスを発散させてやるような意図すら感じる。その時の僕はそんなことにまで考えが及ぶほど利口ではなかったんだけどね。

 それでも僕は新しいものが見つかることを期待して、その日もまた皆が寝静まった夜に施設を抜け出して、星を見に行っていた。昔から夜空は好きだった。百年、いや千年前の人だってきっと僕と同じものを見ていただろうから。とは言っても、この日の目的は別にあった。


(今朝のアレはなんだったんだろうか……?)


 僕は光が漏れ出たように見えた場所まで来ると、無断で持ち出していた作業用のナノマシンをツルハシの形に変えた。そして探知機を用いて遺物が周囲にないことを確認してから、ツルハシを光の出所に思い切り振り下ろしてみた。すると何か硬いもの―さらにそれは石や岩なんかよりよっぽど硬いものだという確証もあった―に当たる感触を覚えたんだ。そして周りにある砂や土を取り除いて取り出してみると、ソレは掌にギリギリ乗るぐらい小さな黒い玉だった。


(なんだこれ……? 探知機に引っかからなかったということは遺物ではない訳で、かと言ってこんな綺麗な形の球なんて見たことないし……)


 コレを手にした時、僕は退屈をぶち壊すような物を見つけることが出来たと、期待を胸に抱えていた。だけど、知識がなまじっかあるだけで、経験が全くと言っていいほどない僕は二つの勘違いをしていた。一つは退屈をぶち壊すモノは探すまでもなく向こうからやってくるということ。そしてもう一つは――


「グオオオッ!」


「なんだ!?」


 ソレが僕を傷つけないという保証なんて誰もしてくれないということだ。虫の声すら聞こえない静寂に包まれた夜に、野太い声が響きわたった。


(あれって……ゴブリンか!? 汚染区域にしか生息していないはずなのに、なんで人間の居住区まで来てるんだ!?)


 ゴブリンというのは視界が悪い汚染区域でも獲物を見つけられるように、非常に鼻がいい。それが比較的空気がきれいな居住区に来てしまえばどうなるか? ゴブリンは完全に姿を隠していた僕の存在に簡単に気づいてしまった。僕は近づくゴブリンの足音を聞いて半ばパニックになってしまった。


(まずい……こっちに来る。どこかに逃げないと……!)


 これが良くなかった。僕が逃げたのは施設と反対の方向。しかもその日はいつも探検している所より遠くの作業場で発掘していたせいで、僕はすぐに居住区と汚染区域の境界までたどり着いてしまった。別に汚染区域に入ったところですぐに死ぬという訳でもないことは当時の僕にも分かっていたはずなのだけど、パニックになると無意識に選択肢を狭めてしまうものらしい。もちろん闇雲に走るだけで肉食のゴブリンから逃げ切れるわけが無かったし、僕にはもう走る体力が残されていなかった。


(行き止まり……!何かで迎撃しないと!)


 僕は足元の砂や、石を投げつけたが、ゴブリンは怯むことなくこちらに向かってくる。せめて立ち向かう勇気があれば死ぬことはなかったかもしれないが、傷つく恐怖に立ち向かう勇気はなかった訳で。


「クギャギャギャ!」


「やめろ!来るな!!なんでっ……なんでこんな……!」


 抵抗する意思すら無くした僕に、ゴブリンが下衆な笑みを浮かべて近づいていった。なぜ僕がこんな目にあっているのか――無断で夜に施設を抜け出したから。つまるところ自己責任だ。だから僕はこれを罰だと思うことにした。充分恵まれた現状に勝手に不満を抱いて、自分の意志で選択しようとした者に対する罰なんだろうと。そうして僕の頭の中で絶望が渦巻き、いよいよ先程見つけた謎の球体を投げつけようとしたとき、真後ろから轟音が鳴り響いた。


「何の音だ………?……ッ!?」


 限られた情報の中、生き残るために極限状態まで加速した僕の思考はある一つの結論を導きだし、即座にそれに従うことにした。――つまり、僕の背後から猛烈なスピードで何かがやって来ていて、今すぐ避けないと轢かれて死ぬ、ということに。そうして僕が真横に思いっきり跳躍した瞬間、何か大きなものが僕が直前までいたところを通りすぎ、まさに僕を襲わんとしていたゴブリンを巻き込みながらその先にあった岩に突っ込んでいった。


「はぁ……はぁ……。なにがどうなって……いやそれよりもさっきのやつは一体何だ!?」


 何がなんだか分からないまま衝突音がした場所に向かった僕は、そう……出会ってしまった。


「これって……NA1型ビートル!? 初めて見た……。思いっきり岩にめり込んでいるけど乗員は無事なのか……?」


 結局最後まで謎が多かった女性こと、アルス・ルミナスと。


 そして、確信したんだ。


 今こそ僕の人生が再始動したのだと。




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