ゆっくりと、生きていこう

みこみこ

ただ普通の人間だから

 小さな部屋に鳴り止まないアラーム。それは自分の機嫌を悪くするひとつの要因だろう。


 意識の外から響くアラーム音。そしてその音色は自分で選んだ少し洒落たものである。


 布団からゆっくりと手を伸ばし、アラームの鳴るスマホの画面を触る。少しざらりとした感触だった。画面を拭かねばならない。


 2度寝という誘惑に抗いながらも、少しずつ意識が戻っていく。今日も一日が始まるのだと、名前の分からない鳥の鳴き声と共に体を起こしていく


 私はまだうとうととしながらベッドから起き上がり、スリッパを履こうとした。が、冷たい感触が足に伝う。身幅を間違えたようだ。冬の冷たい床に足を置いてしまった。


 少し目が覚めると同時に改めてスリッパを履き直す。すこしもこもこした、薄っぺらいスリッパは、ズリズリと音を立てながら歩んでいく


 冬の寒さが身に染みる。布団とは偉大なものだ。私の体はどんどん冷たくなっていく。


 扉を開け、ゆっくりと階段を降りていく。踊り場の上側にある棚には、過去の栄光が飾られる。そして、姉の栄光も。


 賞状やトロフィーが連なり、トロフィーの反射が目に刺さる。今日は天気がいいのだろうか。階段の先にはいつも過ごすリビングがあった。


 すぐそこにあるキッチンには母がいた。私は咄嗟に咳払いをし、喉の違和感を治す

「おはよう」

「うん、おはよう」

 ただ普通の挨拶だが、私は嬉しかった。普段は起きれず、話せる機会が少ないからだ


 両親は共働きである。そして私は通信制の高校生だ。朝1人なのは珍しくなく、むしろ当然のようなものだった。


「今日は学校行けそう?」

 なぜ行くか行かないか、ではなく行けそうと言うのか。それは私の体が関係していた。

 腹が常に痛く、精神も不安定な私には、その言葉は少し悲しくもあり、配慮も感じた。


「うん、大丈夫。今日は良さげな感じだよ」

 ガサッとした声に対して返答はあまりにも阿呆っぽい感じだが、私は家族の前では少しでも、元気で明るくいたいのだ。


 キッチンにある食パンの袋に手を伸ばし、パンを取り出す。そして私が好きな『塗って焼くだけ焼き芋!』に手を伸ばし、同時にバターナイフを取り出した


 箱を開け、バターナイフを焼き芋の匂いがするマーガリンのようなものに突っ込む。そしてそのまま少し前にズズズッと動かし、バターナイフについた塊を取り出す。


 しまった。少し取りすぎたかもしれない。自分の中での適量というのは、これではない気がする。だが取ってしまった物は仕方ない。少し厚く、ゆっくりと食パンに塗っていく


 やはり少し厚くなってしまった。中に火が通るだろうか? そんな心配をしながらオーブントースターを開け、食パンを入れる。バタンと閉じ、3分半のタイマーをセットする


 個人的なこだわりを食パンに発揮するとはなんとも滑稽だろう。だが私はその少しのこだわりが好きだ。オーブンが赤くなっていくのを座って眺めながら、手を伸ばしオーブンの前にやる。


 少しでも手を暖かくしたい。そんなしょうもないことだが、私にとっては癒しでもあるのかもしれない。食パンの表面がふつふつとし始め、そろそろ焼き上がる頃、私は立ち上がった。


 おもむろに薬の入った箱を開け、水道からコップ満タンに水を汲む。飲む量が多いから、こんなにも必要なのだ。


 私は薬が嫌いだ。治る保証は無いのに、医者はニコニコと出し、実感はしづらい。

 飲む意味があるかもわからぬまま口に運び、ごくんと飲み込む。半錠のものもあるため、少し飲みずらい。


 そんなことを考えていたら後ろからチーンと高らかな音を鳴らし焼きあがった食パンの匂いが立ち込める。その音に驚き少し薬が喉に詰まる。

 少し咳き込み、喉に痛みを感じるが、水をグビグビと飲み、押さえつける。


 オーブンを開け、熱々の食パンと立ちのぼる焼き芋の匂い。これだけで食欲が増進する。白い皿をもちながらゆっくりと下に差し込み、熱さを感じぬよう食パンを皿に乗せる。


 リビングのテーブルに皿を置き、自分愛用のミニオン柄の少し縦長なコップを取り出す。

 そして冷蔵庫を開け、冷たさを感じながらも、コーヒーと牛乳を取り出す。そしてコーヒーを3分の1ほど入れ、牛乳を入れる。簡単コーヒー牛乳の完成だ。


 苦めのコーヒー牛乳には甘い焼き芋パンが合う。そうして既に暖かいコタツに入り、また一日が始まる


「いただきます」

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ゆっくりと、生きていこう みこみこ @Gurihu1574

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