都は陰を見ない

@mania_ch

都は陰を見ない

評議会暦 3359年5月13日

 この日は、人民が勝利した日として歴史に刻まれた。


 ここは世界首都…いや、人民評議会中央都市だ。なぜ言い直したか?単純だ。犯罪だから。そう、この星ではあらゆることが罪なのだ。法律があるわけではない。でもそれはそこにある。

 世界革命から500年たった今、この星は荒れている。いや、本来はこのようなことを言うべきではないが、荒れているのだ。言葉では表しようがないこの現状を、どう表現しようというのか。遠い昔に使われていた言葉に、「百聞一見に如かず」というものがあるそうだ。私が何と言おうと、この状況を真に理解することができるのは経験した者のみということ。想像を絶する闇が、この星を取り巻いているのだ。

 500年前、人民はこの世に蔓延る諸悪を完全に消滅させたはずだった。そう、だったのだ。だが、今こうして議会中央都市の少し外れたところにいると分かる。悪は消滅などしていないと。いや、500年前は消滅させたのかもしれない。だが現に今、悪が目の前にあるのだ。500年も前のことが記述されている文献はどれも信用性に欠けているため、当時の様子は分からないが、そんなことはどうでもいい。後ろばかり見ていたって仕方がない。

 それで、何の話だったか?あぁ、そうだ、つまるところ、悪は今も存在していて、人々は過去の栄光に縋ってばかりで堕落しているんだ。例えばここ、議会中央都市は町全体がとても豪華で、特に町の中心にある中央評議会、またの名を地球評議会は、この星のどの建物よりも広大で、機能的で、絢爛豪華だ。だがあんなものはお飾りなんてことはみんな知っている。知っているうえでそれに縋っているのだ。狂信的に。そして、妄信的に。彼らにはそれしか残っていないから。だからこそ、私は地下組織に参加してこの星に変革をもたらす。ここ数百年、過剰なほどの相互監視が、住民たちを恐怖に陥らせ、事故死や自然死以外で亡くなった人は一切いない。私たちの活動はこの星に良い影響を与えるだろう…。


 ここは地下組織のアジトだ。場所は伏せておく。何をしているか?そんなもの反体制運動に決まっているだろう?いや、奴らの言い方を真似るなら「人類に対する敵対工作」だ。私たちはあらゆる手段、それも合法・非合法問わずに使えるものを全て使って人々を闇から救い出す。

 今日もまた、中央評議会には悪趣味な旗が風に靡いている。一刻も早く取り戻さねば…。


 遂にここまでたどり着いた。遂に…遂に、今までの活動を全て表沙汰にする時が来た。この事変は500年ぶりに歴史書を書き換えるだろう。早急に終わればいいが。血を流すのはいつも無関係の住民だ。この500年間、帝国主義ともいえる狂気的な社会構造が多くの人々から昨日の頑張り、今日の活力、明日の希望を奪った。だが、そんな毎日も今日で終わりを迎える。この誰が見ても口をそろえて「美しい」と言う議会中央都市は500年の歴史に幕を下ろす。


 光あるところには影がある。私がまだ小さいころ、両親を亡くして毎日の食料にも困っていた時、とある人物にであった。彼はこの星では罪とされる浮浪者のような身なりをしていた。実際そうだったのだろう。彼はこの薄汚れた欺瞞と溢れ出す狂気を見てこう言った。「都は陰を見ない」と。

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