GODARCA

@Strawberry_TRPG

気まぐれ


「――ん〜!!うま! やっぱ生クリームはいっぱいかけなきゃだよね〜♪」

試作―と称して材料費を全て経費で落としたまかない―のパンケーキを楽しんでいた頃、店の扉にノックではない、何か衝撃音が響く。


扉の方を見てみれば、力なく倒れ込む一人の女性の姿があった。


え〜…だる……。

でもこのままじゃ営業に差し障るし……一旦入れるかー…?


そんな風に思考を巡らせながら、店先へ出て女性を抱える。

女の身長は160cmくらい。肉付きは普通くらい…なのだろうが、ここ数日何も取っていないのか顔が痩せこけていた。オマケに肌もガサガサ、身体の至る所がボロボロだった。


よく生きてたな…。


なんて思えるほどにボロボロだった。

大変だったんだろうなーと完全に他人事な感想をつけながら、店内のソファー席へ女を寝かせた。


これ放置でいいの?でも明らかに脱水症状だし、水とか飲ませるべき?……絶対今自力じゃ飲めないだろうけど。スポイトとかあったかな?

てか極度の脱水症状に水飲ませたら死ぬんだっけ?経口補水液ならセーフ?そんなん置いてないけど。

ま、作れるか。


甘い香りの漂うキッチンで、経口補水液を作る。なんとも言えないシュールさがあった。


なんでボクがこんなこと……。


スポイトはやっぱり無かったから、製菓用に使ってた霧吹きで吹きかけることにした。


2、3回口元に向かって吹きかけた。

反応は特になかったけど、口には入ったからOKとする。


「さっ!パンケーキた〜べよっと♪」


ボクが食べ終わって、片付けまで済ませても女は目を覚まさなかった。

死んだかとも思ったけど、呼吸はしているようだから生きてはいる。

店内で死なれたら迷惑だから絶対やめてよね。


暇だし植物の手入れでもするか〜!



︎︎ ⟡



「…あ。」


一通り手入れが終わった頃、視界の端でソファーの上の人影が動いた。目覚めたようだ。


なにか叫んでいたようだけど、店先の桜の樹の手入れをしていたところだから聞こえなかった。


とりあえず戻るか。


ボクが店内に入った時女は、


「………あ、れ…?ここは…?」

と呟きながら店内を見回していた。

そしてボクのことを見つけるなり、


「貴女が助けてくださったんですか!?ありがとうございます!!」

と日本語で話しかけてきた。ここはロンドンだというのに。

すると相手もそのこと気がついたようで、


「あっ!えっと……さ、サンキュー!ヘルプミー…?」

メチャクチャな英語で感謝を伝えてくる。

日本人ではないと思われたんだろうね。まあ何人かなんてボク自身も知らないけどね?


それにしても、よくここまで生きて辿り着けたよね。


「意識戻ったのはいいけど、ほぼ死にかけだったからまだ安静にしてなよ。ここで死なれたら迷惑。」


ほーんとボクが天才なことに感謝してよねー!日本語だって余裕で話せちゃうんだから♪


「日本語…!! てっきり外国の人かと…。あ!申し遅れました、朝日麗良と申します。助けていただきありがとうございました!貴女のお名前もお聞かせ願えますか?」

女は日本語が返ってきたことに唖然とした後、慌てたように返事をした。

こちらの名前を聞いてくるその表情に、どこか期待の色が混ざっているように見えた。


「ウツタヒメ。呼びにくいからヒメでいいよ。」


「………ウツタヒメさんですね。ではお言葉に甘えてヒメさんと。重ね重ね、本当にありがとうございました。」

ソファーの上で姿勢を正してこちらに礼をしてくる。

最初の沈黙に、何か含みがあるように感じた。勝手に期待されて、勝手に失望された?ちょっとムカつくんですけど?


「このご恩はどう返したら…?」


「え〜?」


手伝って欲しいことなんかあったかな〜?

ん〜……アルカナ隊員増員、くらい?でもこれさー…


麗良のことを一瞥する。


どう考えても強くないよね。才能があるならまだやりようあるけどさ。


「キミ、戦える?無理なら無理でいいんだけど。」


「は?…えっと、どういう…?自衛くらいなら多分できると思うけど…。」


「自衛じゃ意味ないんだよね〜。じゃあ聞き方を変えようか。」


そこで言葉を一度切って、こう続ける。


「命を賭けて神話に抗う気はある?」


「えっと…?」


麗良は理解していないようだった。


「ルルイエの浮上で世界がこんなことになってるのは知ってるよね?こうなった原因とも言える神話生物…これに立ち向かおうとしてる馬鹿な団体があるの。対神話殲滅機関アルカナって言うんだけど。」


「なるほど…?」


「可哀想なことにボクもここに所属させられてるんだよねー。…つまり、アルカナは戦力が欲しいワケ。ここまで言えばわかるよね?キミはどうしたい?」


どうせ犬死するだけだから断ってくれないかな。


「……わかりました。やります。やらせてください!」


「だよねー、だと思っ…はぁ!?ちょっと待って、本気で言ってる?キミ自衛しか出来ないんだったよね?命の恩人とかそういうのどうでもいいから。今のあんたじゃ無駄死にしかできないと思うよ?」


断られると思ってた。だって"世界の為"なんてご立派な名分はあるけど、基本人間は死ぬのが怖いから。

断られたら、あびの運営でも任せようなんて思ってたのに。


「いいんです。きっともうこの世には私の無事を祈る人はいないから。死ぬならせめて、誰かの役に立ちたい。実力が足りていないって言うなら、これから誰よりも頑張ればいいだけでしょ?」


あぁ、これだからバカは。どうしてこんな……

でもだからこそ面白い。捨てたもんじゃないね。



「はぁ……じゃ、いいよ。ボクが手伝ってあげる。そうと決まれば武器決めなくちゃね♪入隊試験とかは特にないけど、強いに越したことはないから。今から得物決めて、一週間でモノにして。話はそれから。ほら行くよ。」


「はい!!」


麗良の元気な返事を聴きながら、お店の奥――倉庫へ案内する。



倉庫と言っても、ほぼ武器庫である。

不思議な日本刀や、鉄扇、彫刻刀、など様々な武器類が置いてある。


「ここから好きなの選んで?」


とだけ言い、選択を見守る。


麗良の視線が武器庫内を彷徨う。

暫く見回した後、二択で迷っているようだった。

それは鉄扇と、チャクラム。

視線を見る感じでは鉄扇に傾いているようだった。


……鉄扇、かぁ…。


今ここにある鉄扇は一つだけ。どう手に入れたのかは覚えていない。気づいたら持っていた。

どれを選ぼうがどうでもいいはずなのに、なんでもいいはずなのに、鉄扇を選ぼうとしている麗良へ、底知れぬ嫌悪感が込み上げる。


……なんで?どれ選ぼうがどうでもいいのに。


自分の感情が時々わからなくなる。基本的にはどうしてそう感じるのか理解できるのに。今は心の底から自分が理解できない。


なんて考えているうちに、麗良は武器を決めたようでこちらを振り返る。


「これにしようかな」


その手に握られていたのは2枚のチャクラムだった。


その時凄く安堵した自分がいた。


「了解。教えるのは明日からね。今日はそのボロボロの身体何とかして。」


そこまで言ったところで気づいた。


これボクが衣食住まで面倒見なきゃじゃない…?

食と住は何とかなるけどさぁ、服……。


ボクは146cm、麗良は160cmくらいはありそう…。

どう考えても麗良が着れるサイズの服がない。


ま、アルカナに頼めば提供してくれるでしょ。

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