第4章(最終章):最後の贈り物

森の風はひんやりと冷たく、

鮮やかに色づいていた木の葉がはらはらと散り始めた頃、

メイは巣へ戻る途中、かすかな歌声を耳にしました。


「まだ歌ってるの…?」

声のする方へ足を運ぶと、

そこには弱々しい羽を震わせながらも歌うリクの姿がありました。


歌声はかすれていたけれど、その響きはどこか温かく、真剣でした。


やがて、一匹のメスのキリギリスが彼に近づいていきました。

リクはメスのキリギリスを見つめ、

ふらつきながらも最後の力を振り絞って歌を続けます。


そして、歌い終えると、背中から透明な袋のようなものを差し出しました。

「これが…僕の最後の贈り物だよ」

メスのキリギリスはそれを受け取り、静かに寄り添いました。


その直後、リクは満足したような顔をして、地面に身を横たえました。

疲れ切った顔には、不思議な微笑みが浮かんでいました。


「リク!大丈夫?!」

メイは急いでリクに駆け寄りました。


リクは

「ああ・・・君か…僕は使命を終えたよ。

 やりきったんだ。僕は満足だ…」

そういうと、リクは静かに目を伏せ、動かなくなりました。


リクの歌声が森に響くことは、もうありませんでした。


静かな風が吹き、晩秋の木漏れ日がリクの姿をやさしく包み込みます。


メイは涙をこらえながら、小さな声でつぶやきました。

「リク…あなたは、あなたの使命を最後まで果たしたのね」

胸の奥に、熱く重たいものが広がっていきました。


――私は本当に、自分の使命を果たしているだろうか。


メイは小さな胸に手を当てました。


リクが全力で歌い抜いたように、私も――。


冷たい風が吹き抜ける森を、メイは前を向いて歩いて行くのでした。



~おしまい~



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アリとキリギリス 〜それぞれの使命〜 山下ともこ @cyapel

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