第9話 再会
霊廟の奥深く、月光さえ届かぬ凍てついた空間に、彼は立っていた。
「とうとう来たか、私の最も美しい眷属よ」
王子が口を開いた。その声は、氷のように硬質だった。
白雪姫は銀の短剣を抜き放った。その刃先は、七人の王の血を吸収したことで、以前の銀色ではなく、虹色の微かな光を放っていた。
「私はもう、あなたの眷属ではない」白雪姫は冷たく答えた。「私は、あなたが世界に解き放った呪いを狩り、そして、その呪いの根源を断つ者だ」
王子は微かに微笑んだ。
「七人の王を討ったか。見事だ、白雪姫。そして、その手に持っている短剣――『原罪の銀』は、完璧に目覚めたようだな」
白雪姫は短剣を見つめた。七人の王を屠るたびに、彼女の短剣は理を司る彼らの魔力を吸収し、最終的に、真祖の不死性を打ち破る力を得たのだ。
「すべては、私が望んだ通りだ」王子は静かに歩みを進めた。
「私は真祖の血族の末裔として、七つの理の王たちが世界の理を歪めることを知っていた。だが、彼らを直接討伐することは、真祖の呪いによって我々には不可能だった」
王子の瞳に、深い諦念の色が宿る。
「だからこそ、私が必要としたのは、七つの理を討ち、その力を吸収し、真祖を殺しうる武器を持つ者――そして、その武器を完成させるための、完璧な道具だった」
彼は白雪姫の足元を一瞥した。
「毒の口づけと、吸血鬼としての本能、そして贖罪という枷。これらが揃わなければ、お前は王たちを討てなかった。お前は、短剣を真の力を解放させるための触媒として、私の使命を果たした」
白雪姫の紅い瞳が激しく燃えた。
「七人のこびとたちを裏切らせ、私を苦しめたのは、この短剣のためだったというのか!?」
「使命ではない。献上だ、白雪姫」王子は囁いた。
「この短剣は、元々真祖が創り出したものだ。そして真祖は、自分の不死を打ち破り、安息を得ることを望んでいた。七人の王を創ったのも、この短剣の力を集めさせるための儀式だったのだ」
王子は手を差し伸べた。
「お前は真祖の願いを叶え、私に、その力を手渡す役目を終えた。さあ、その短剣を私に渡せ。私が真祖を討ち、この永遠の夜を終わらせてやろう。そして、お前は、私の傍で永遠の安らぎを得るのだ」
白雪姫は、その手を拒絶した。彼女の握る短剣は、もう彼女自身の意志を持っていた。
「真祖の願い、あなたの使命……。どちらも私には関係ない」
彼女は、銀の短剣を王子の心臓めがけて、まっすぐ突き出した。
「私は、私の罪を償う。そして、私の罪の始まりは、あなただ」
彼女の贖罪の旅は、真の終焉を迎えるため、真祖の意志を継ぐ王子との最後の対決へと突入した。
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