第2話 夜明け
ガラスの棺から甦って数時間。王子は「私の眷属よ。待っている」という、呪いにも似た言葉だけを残して、夜明け前に姿を消した。
残された白雪姫は、自分を囲む森の光景が、まるで色彩を失ったかのように感じられた。それよりも耐え難いのは、喉の奥から這い上がる、焼けるような渇きだった。それは、清らかな水を求める渇きではない。全身の血管が、煮えたぎる炎で脈打っているかのように熱く、ただひたすら「紅いもの」を欲していた。
彼女は夜な夜な森を彷徨い、最初は動物の血で、次に人間の血で、その飢えを満たそうとした。しかし、口づけによって王子から受け継いだ魔力は、彼女が単なる野獣になることを許さなかった。血を啜るたびに、王子の冷酷な声が耳の奥で囁いた。
「夜の獣を狩れ。それがお前の贖罪となる」
彼女が血を啜った人間は、不思議と生命を奪われることなく、深い眠りにつくだけだった。この異様な事実に気づいたとき、白雪姫は悟った。自分は吸血鬼としての力を持ちながら、王子によって吸血鬼を狩るための枷を与えられたのだと。
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