恋の未練、充電中。

城崎

第1話 元カノスマホ、誕生しました

『バッテリーがありません。充電してください』

「あ、やっべ!」

 思わずレスバに夢中になっていたら、スマホの充電がなくなってしまった。

 最近よくあることで、こうなると相手からは逃げたと思われるので本当に嫌だ。

 ……まずレスバ自体が、何をしているんだろうと思わせてくる。

 分かってはいるけれど……現実逃避がやめられない。

 理由はよく分かっている。けれど、それにすら直視したくない。

 改めて匿名掲示板でレスバをしようと思いつつ、スマホをコードに繋いだ。

 しばらくしたら、画面が起動する。

『あなたのスマホ、七海を起動しますか?』

「……っなんで、この名前が」

 俺の手は、思わずスマホを落としてしまいそうになった。

 七海。

 それは、元カノの名前だ。そしてこの前、運悪く交通事故に遭い意識不明になってしまったらしい人物の名前でもある。

 スマホに元カノの名前をつけるなんて悪趣味なことした覚えはないのに、どうして?

 訳が分からないまま起動すると。聞き覚えのある声がスピーカーから聞こえてきた。

「あのー……聞こえてますか?」

「……ウッソだろ」

 それは確かに、七海の声だった。俺があの声を聞き間違えるはずがない。

 それどころか、小さなアバターのような姿でホーム画面をうろちょろしている。右目の下にある黒子は、よく見ていたものだ。

 ……こういう形で、操作などをサポートしてくれる羊みたいなものがいたような気がするような……気のせいかもしれない。

 いや、それは今はどうでもいい話だ。目の前のことに集中しよう。

「えっ、なんで悠斗の声が聞こえるの?」

「お前こそ、どうしてこんなところに……?」

「こんなところって、どんなとこ?」

「どんなところって……」

 俺のスマホの中にいるという現状を、彼女は分かっていないんだろうか?

「よく分からないところに出て、気付いたらここにいたんだよね」

「スマホの中に?」

「そうなの!?」

「本人もよく分かってないのかよ……」

「分かるわけないじゃん! 私たちまだまだ高校生なんだよ!? 知らないことのほうが多いんだから!」

「絶対そういう意味じゃない……」

 相変わらずちょっとズレたことを言っていることまで、すべて七海らしい。

「でも。良かった。知らない人のスマホとかじゃなくて、悠斗のスマホで」

「いやいやいや、俺は困るんだけど……」

 ちんまい七海を避けながら設定を開くと、OS名が七海1になっていた。どういうことなんだよ。勝手にアップデートされたってこと? 

 それにしたって変だ。

 意識だけが、俺のスマホと一体化したみたいな……そんな馬鹿げたこと、あってたまるか。

「あっ、消そうとしてるでしょ!」

「こんなもん致命的なバグだ! 消すべきだ!」

「やめてよ! せっかく再会できたのに! 悠斗はもっと感動して、涙を流すべきだよ!」

「俺のこと、盛大に振ったくせに……!」

「それは……ごめん」

 彼女の声が、一気にしおらしいものになる。

 聞いていてあまりいい気分にもならないので、早く消えてもらいたいのだが……。

「でも、後悔してるんだ」

「ふぅん?」

 続いた言葉に、俺は興味が湧いた。

 後悔。どんなものなんだろう。

「私やっぱり、まだ悠斗のことが好き」

「嘘つけ!」

「本当だもん! 失ってから気づいたの! 私にとって、悠斗は大切な人だったんだって!」

 彼女のことだ。ありえないことではない。けれど今の俺にとっては、どうも癪な言葉に感じられた。

 だから七海の声かけを無視して。あらゆる設定やWebサイトを開いて、OSをどうにか出来ないか調べてみる。けれど、そういう知識がない俺にはどうにも出来なさそうだった。

 クソッ、小学生の頃から、プログラミングとか習っていればなんとかなったかもしれないのに……!

「消せないっていうの、分かった?」

「分かった……」

「これから、よろしくね?」

 ウインクをしているのだろうが、両の目が閉じられていた。そういうところまで一緒なのかよ。

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恋の未練、充電中。 城崎 @kaito8

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