承認欲求を満たす為の小説
@doraemon-help-me
第1話 これは誰の物語でもない
「成る程、貴女が堂前茜を殺害した経緯は理解しました。“殺されそうになったから殺した”とのお話ですが、その一文には端的に言って足りない文言があるとお気づきでしょうか?端的にというか致命的なんですよね正当防衛を謳うならば。しかして貴女の証言にはそれがない。言い間違いでもない。言葉のアヤでもない。確かに“殺されそうになったから殺した”のは間違いがないのでしょう。一般社会に生きているパンピーが殺人鬼に覚醒するなんてのはレアケースもレアケースなんですがね。金色のコイキングでポケモンのストックを埋めるほうがまだ易い。さて、再度お訊ね致します。貴女は“殺されそうになったから殺した”と繰り返し発言していますが、正当防衛ならば無くてはならない文言が抜けています。そしてその文言は幾ら待っても貴女からは出て来ない。これは何を意味するのか、ですよ。
「思えば最初から前提条件が間違っていたんですよね。貴女は殺されそうになったから殺人鬼に覚醒したのだと誰もが勘違いをしていた。命の危険を感じて身を守るために殺人鬼に成ったのだとばかり思っていました。しかしですよ、“貴女が最初から殺人鬼だった場合”は正当防衛は加害者側にこそ機能するのではないか、とも思うんですよね。
「そう。殺されそうになったから殺そうとしたのは加害者側である、と前提条件を入れ換えれば。辻褄というか帳尻が合うんです。良いですか?何度も問います。貴女は殺されそうになったから殺したという。ですけど、
殺されそうになったから“仕方なく”殺した、とは絶対に言わない。初めに殺そうとしたのは貴女ですね?
「ああ良いんです、この疑問符は確認の意味ではありませんので。疑問符だけじゃありませんよ。感嘆符も貴女にはなんの関係もありません。ただ私が勝手に独りで語るだけですから。今じゃなかなか視ないでしょう?探偵が一方的に独り語りを聴かせる手法なんて。古い翻訳ミステリにはよく見受けられたものなのですが、まあ時代の流れなのでしょう。いずれは私のような名探偵も死語となる。
「そう。殺すのは殺人鬼だけの専売特許ではないんです。時代が存在を殺す事だってある。風化でも忘却でもない。明確な殺意を持って、です。さあさ、では貴女の殺し方を紐解くとしましょうか。貴女の殺し方に秘められた謎を解明するとしましょうか。
「なにせ私。名探偵なものでして」
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