ショートショート『同意』

505号室

『同意』

「いいか!ショート動画は最初の2秒がすべてだ!」

上司の檄が会議室に響き渡る。

「この2秒で視聴者をつかめなければ、俺たちの仕事は無意味なんだぞ!スクロールされて終わりだ!全員、もっと緊張感を持て!」

その手に握った書類をバンバンと強く叩きながら叫んでいる。

このままでは、あの書類が我々の頬に代わるのもそう遠くない未来かもしれない。


_____



我々は動画制作に携わっている。それもショート動画の専門部署だ。

日々、再生回数を稼ぐために働いている。


だが、おそらく皆さんが勘違いしていることが一つある。

この場にいるのは私も含めて全員人間ではない。


自己紹介が遅れてしまい申し訳なかった。

私は隅田、死神だ。

あなた方人間からすれば、上位存在である。


何故我々死神がショート動画などを制作し、日夜再生回数を追い求めているのか。

人間たちの寿命の回収のためである。


少し前までは、寿命を回収する手段と言えば、せいぜい魂の契約・取引だった。

悪魔と混同されることもあるが、そうして人間の寿命をまるで飛び込み営業のように各所をまわり回収を行っていた。

しかし、現代は違う。

天界の介入による法整備や、魂を売ってまで叶えたいことなどないという現代人の価値観の変化により、

我々も契約形態を変えなくてはならなかった。


としても、なぜショート動画なのか。

もしこれを読んでいる方でショート動画の視聴者がいれば、考えてみてほしい。

あなた方はスマホとにらめっこしながら見たショート動画の数々を覚えているか?

気づけば1時間2時間も経っていたにも関わらず何一つ得たものはなく、記憶もない。


そんなことはないか?


それは我々がその視聴時間の一部、あるいは全部を寿命として回収しているからである。

なので記憶などなくて当たり前なのだ。


契約形態が「ショート動画」に移行したのは、ほんの4-5年前のことだ。

試験的に始まったプロジェクトだったが、すぐに軌道にのり我々の主力事業となった。

今ではスマートフォンを持たない人間を探す方が難しい。隙あらば画面を覗き込み、無限にスクロールして時間を消費する。完璧な仕組みだと思わないか?


漫画の考察動画や「○○のおもしろ雑学」「好きな人に聞いてみて!禁断の質問5選!!」「社長社長!」なども、実は我々が手間暇かけて作っている。

バカバカしい内容だと思うが、なぜかこれが効くのだ。


…そんな取引を結んだ覚えはない?君たちは誰も契約なんてしていないと?


何を言っている。

ちゃんと利用規約に書いてあっただろう。


そう、君たちが高速でスクロールしているあの文章だ。

きっときちんと全部読んでくれているんだろう。


しっかり同意ボタンも押してくれているのだから。


いつもご視聴ありがとうございます。

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