彼女をやっつけたい

優しさに負けた夜

優しさは、武器になるらしい。

私は彼女の優しさに勝てない。

今日も彼女の優しさに立ち向かう。



20時33分


私は残業で帰るのが遅くなってしまった。

今日も疲れたな、と思いながら家の扉を開ける。


「ただいまー」


「おかえりなさいっ。

ご飯できてるから、一緒に食べよう!」


荷物を置き、リビングに向かう。


「残業おつかれさま。頑張ったね。

大好きなハンバーグだよ、早く食べよ!」


いつもご飯を作って帰りを待ってくれ、

疲れたな、と思う時は私の好きなものを用意してくれている。


彼女のまっすぐな優しさに、呑み込まれそうになる。


しかも、ハンバーグはおろしハンバーグ。

夜遅いから、お腹に気を遣ってくれたのだろう。


……勝てない。



21時18分


食事を終え、少しゆっくりしてしまった。


「お風呂、沸かしておいたから

入れそうな時に入ってね」


「ありがとう。今、入ってきちゃう!」


着替えを持ってお風呂に向かう。


湯船に浸かりながら、

明日は早く帰れるといいな、

彼女と溜まっているドラマを見たいな、

そんなことを考える。


お風呂を上がると、彼女が言った。


「私も入ってきちゃうね」


「はーい、ゆっくりしてね」


着替えを終え、洗い物でもやろうと思ったが、

もうすべて片付いていた。


お風呂に入っている間に、

やってくれていたのだ。


お風呂も溜めてくれて、洗い物まで……。


そういえば、

お風呂上がりのタオルを用意するのを

忘れていた気がする。


それも、彼女が用意してくれていた。


……勝てない。



22時42分


「今日は疲れたでしょ。

早く寝よっ」


「うん、そうする」


ダブルのベッドに、二人で横になる。


「いつもお仕事頑張ってくれてありがとう。

大好きだよ」


「毎日、美味しいご飯を作ったり、

家のことをたくさんやってくれてありがとう。

大好きだよ」


ダブルのベッドに、

シングルで事足りるくらい寄り添って、

眠りについた。



※同じ夜を描いた、別視点の短編をコレクション「優しさには勝てない」にまとめています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女をやっつけたい @kyu_omoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説