彼女をやっつけたい
九
優しさに負けた夜
優しさは、武器になるらしい。
私は彼女の優しさに勝てない。
今日も彼女の優しさに立ち向かう。
⸻
20時33分
私は残業で帰るのが遅くなってしまった。
今日も疲れたな、と思いながら家の扉を開ける。
「ただいまー」
「おかえりなさいっ。
ご飯できてるから、一緒に食べよう!」
荷物を置き、リビングに向かう。
「残業おつかれさま。頑張ったね。
大好きなハンバーグだよ、早く食べよ!」
いつもご飯を作って帰りを待ってくれ、
疲れたな、と思う時は私の好きなものを用意してくれている。
彼女のまっすぐな優しさに、呑み込まれそうになる。
しかも、ハンバーグはおろしハンバーグ。
夜遅いから、お腹に気を遣ってくれたのだろう。
……勝てない。
⸻
21時18分
食事を終え、少しゆっくりしてしまった。
「お風呂、沸かしておいたから
入れそうな時に入ってね」
「ありがとう。今、入ってきちゃう!」
着替えを持ってお風呂に向かう。
湯船に浸かりながら、
明日は早く帰れるといいな、
彼女と溜まっているドラマを見たいな、
そんなことを考える。
お風呂を上がると、彼女が言った。
「私も入ってきちゃうね」
「はーい、ゆっくりしてね」
着替えを終え、洗い物でもやろうと思ったが、
もうすべて片付いていた。
お風呂に入っている間に、
やってくれていたのだ。
お風呂も溜めてくれて、洗い物まで……。
そういえば、
お風呂上がりのタオルを用意するのを
忘れていた気がする。
それも、彼女が用意してくれていた。
……勝てない。
⸻
22時42分
「今日は疲れたでしょ。
早く寝よっ」
「うん、そうする」
ダブルのベッドに、二人で横になる。
「いつもお仕事頑張ってくれてありがとう。
大好きだよ」
「毎日、美味しいご飯を作ったり、
家のことをたくさんやってくれてありがとう。
大好きだよ」
ダブルのベッドに、
シングルで事足りるくらい寄り添って、
眠りについた。
※同じ夜を描いた、別視点の短編をコレクション「優しさには勝てない」にまとめています。
彼女をやっつけたい 九 @kyu_omoi
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