千条晩華の勇者美学 ~俺だけ勇者プレイ縛りでデスゲームを生き抜かないといけないらしい~
虚言ペンギン
Prologue 『勇者』
月に照らされた学校の運動場に、二人の男女が立っている。
一人は両手に大きな機関銃を握った、猫背の男。
そしてもう一人は──
「──テメェ、こりゃあデスゲームだぜ? なんでコスプレ女が紛れ込んでンだ?」
男が呆れた様子で、機関銃の銃口を用いて相手の格好を指摘する。
「しょ、しょうがないだろ! これはボクの
対する少女……否、勇者は顔を赤くしながら肩に担いだ大剣を振り回した。
彼女の身の丈より僅かに小さいばかりの巨剣を、まるでバルーンで出来た玩具のように扱う人外の腕力に、男は顔を引き攣らせる。
デスゲームが始まってから五日目。
これまで十人以上の能力者達と渡り合ってきたが、このような馬鹿力の者に出会うのはこれが初めてである。
「……ははっ。だが俺も負けちゃいねェぜ。剣じゃ銃にゃあ勝てねェって教えてやンよ」
両手の機関銃が、同時に勇者をターゲティングした。
トリガーに指を掛けた瞬間、眼前の勇者の姿が掻き消える。
「は? どこに──上ッ!」
この五日間で研ぎ澄まされた勘が、首の皮一枚で男の命を繋いだ。
上空から隕石のように落ちてきた大剣が、硬められた砂の地面を叩き割る。
破壊はそれだけに留まらず、小石や砂の塊が弾丸のように男の身体へ殺到した。
「【
しかし天然の弾丸が男を貫く前に、彼の銃口から無数の指輪が発射される。
真鍮製の安いメッキが塗られた弾は、的確に眼前の脅威を相殺していった。
砂埃が晴れ、視界が徐々に開けていく。
「……あ? 待て、剣しかねェぞおい。あのコスプレ女は──」
「──ここだよ」
背後から声が聞こえ、男は咄嗟に前へ飛ぼうとして
「【
「ぁがっ……!」
背後から発生した莫大な圧力により、百メートル前方の校舎まで吹き飛ばされた。
昇降口の扉を破壊し、そのまま壁際まで転がって止まった男は、血反吐を吐きながらも、自分の飛んできた方を睨み付ける。
「……もう、動けねぇ……さっさと殺れよ」
無傷のまま、腰に手を当てやってきた勇者に向けて、
「嫌だね。ボクは勇者だ、キミは殺さない。このゲームは、どちらかが降参すればそれで終わりだ」
「はっ。そうかよ……趣味のわりぃ野郎だぜ。分かった……俺の負──」
「──ボクの負けだ! キミは倒れて、ボクは立ってるけど、ボクにはこれ以上戦う気がない! つまり、ここで反撃されても為す術がないってこと! 運営さん、それでいいよね!」
「はァ!? 待て待て待て、どうしてそんなンだよ──」
驚く男を他所に、ゲーム終了のブザーが一帯に鳴り響く。
少女の馬鹿げた降参宣言が認められ、男の勝利となってしまったのだ。
ありえないほどのお人好し。
自らの身すら滅ぼす致命的な性質の勇者は、満面の笑みを浮かべて男の眼前へ手を差し伸べた。
「立てる? 思いっきり腰にぶち当てちゃったけど、折れてないよね?」
「ンなことどうでもいいンだよ! テメェ、なンで降参しやがった!」
力を振り絞って手を叩き落とし、男は吠える。
「んー、説明しづらいんだけど……強いて言うなら……勇者だから、かな?」
「は? 勇者ァ……? マジでイカれてンのかテメェ……」
ふざけた人間だ。
自分が勇者だから。そんな馬鹿みたいな理由で、彼女はポイントをドブに捨てた。
七日以内に指定された分のポイントを集めなければ死ぬというのに。
あと二回しか、そのポイントを得る機会は無いというのに。
思わず男は笑い出す。
これが笑わずにいられるか。
自分よりも遥かに強いこの少女が、自分のような人間を生かすために死んでいくのだ。
これほど愉快なことなど、他にないだろう。
全くもって、反吐が出る。
「……はっ、ははは。死ぬぜ、馬鹿女。ンな訳わかんねぇ理由の為に、テメェは死ぬンだ」
だから、笑い飛ばして煽ってやる。
彼女の行いを否定し、後悔させるために。
しかし勇者は揺るがない。
「うん。そうかもね。……それでもボクは──」
──勇者だから。
月の光を背に受けながら、少女は儚げな笑みを浮かべた。
プレイヤーネーム:千条晩華
保有ポイント:0ポイント
残り必要ポイント数──10000ポイント
千条晩華の勇者美学 ~俺だけ勇者プレイ縛りでデスゲームを生き抜かないといけないらしい~ 虚言ペンギン @purin2147
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