第4話
その日の午後、残った生徒たちは何とか準備を続けた。しかし、重要な担当者が抜けた穴は大きかった。特に朝倉は、玉木が作るはずだった棺桶の設計図を手に途方に暮れていた。
「どうしよう。玉木くんがいないと、これ作れない」
ただの不安だけではない。せっかく皆で一生懸命考えた企画が......。
「俺がやってみる」
そのとき、いつもは大人しい男子生徒が立ち上がった。
「玉木ほど上手くないけど、何もしないよりマシだろ」
その言葉に、他の生徒たちも「私も手伝う」「僕も」と声を上げ始めた。
その瞬間、教室の空気が少し温かくなった。不安や恐怖はまだそこにあったけれど、それ以上に強い絆が生徒たちを結びつけていた。
「ねえ......」
朝倉が、ぽつりと言った。
「ねえ、みんなさ。もし、このまま、ずっと準備だけしていられたらどうかな?」
突然の問いかけに、生徒たちは顔を見合わせた。
「ずっと?」
朝倉は答えず、模造紙の端を指で押さえた。
「正直さ、終わるって思わなきゃ、気が楽だよな」
朝倉はその言葉に静かに頷いた。
「でしょ?」
しかしその声が、いつもより少しだけ低かったことには、誰も気づいていなかった。
朝倉は皆が帰宅した後、教室に残った。やり忘れた作業があったのだ。教室の中をゆっくりと見回すと、後ろの棚に向けて歩き出した。そして、棚の前で立ち止まった。
「......小さい頃ね」
誰にともなく話しかけていた。
「怖い夢を見ると、いつもクマのぬいぐるみを抱いて寝てたの」
返事はない。
「そして起きたら、何もなかったみたいに思えたの。夢も、怖いことも」
棚のクマのぬいぐるみが右端の一体だけ横を向いていた。それを優しく掴んで正面に向けてやった。
「これで良し、と」
ぬいぐるみの頭をそっと撫でた。腐葉土の匂いが教室を飲み込んだ。
「だから、これで大丈夫だと思う」
朝倉はみんなを追いかけるように教室を後にした。
しかし、翌朝。
さらに二人が欠席し、棚の上のぬいぐるみは五体に増えていた。
生徒たちの顔は青ざめたが、それでも作業の手を止めなかった。
「玉木たちの分も、絶対に最高のお化け屋敷にしよう」
朝倉の言葉に皆、頷いた。
そしてその日も、朝倉は皆が帰った後、ぬいぐるみが乗った棚をきれいに拭いてから帰宅した。
その後ろ姿は、どこか楽しそうにさえ見えた。
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