魔法少女プリエ・アカリ☆ 世界を救うことが使命なんだ! 【R-15G】

りあな

第1話

 火に呑まれていく街。紅く照らされたその風景を、私は遠くから眺めている。人が燃え、家が燃え、ビルが燃えていく。すべては、鎮魂の焔を天へと掲げるための燃料として。燃えていくそれらは持っていたはずの色を失い、ただ一つの、絢爛たる赤へと昇華されていく。私はその赤を、いずれ過ぎ去りすべてが灰色になるその赤を――美しい、と思った。


 アラームの音で目が覚めた。目に映るのは夢で見ていた美しい赤ではなく、灰色の見慣れた天井。私は身寄りがない孤児だった。政府に拾われた私は、魔法少女として平和を守っている。正しい正義の味方として、仲間と共に。この仕事は楽しい。いつも助けた人には感謝をされるし、少し恥ずかしいけどニュースにだって出るのだ。学校のみんなには内緒だけど、話題に出るたびにちょっと誇らしい気持ちになる。


 いつものように、私たちは施設のカフェテリアに集まった。今日は少し奮発して、みんなでおいしいパフェを食べるのだ。普段は少し高いせいで、別のもので妥協してしまうのだけれど。でも、今日はいいんだ。だって、あの大変な事件を解決したんだから。パフェが待ち切れない私は、いそいそと注文を頼もうとしたところで気づいた。


「あれ?シズクは?」

「今日は妹の誕生日だから無理だって言ってたじゃん。忘れたの?」

 イノリは少し怒った感じで言ってくる。私に悪気はないのだけれども、パフェが楽しみすぎて忘れてしまっていた。コトリはまたか、みたいな顔をしてため息をついている。ウララは、何も気にせずニコニコとしながら、その光景を見つめていた。シズクがいないと、何かが欠けているような感じがする。いつもなら、私が失敗をしたところで、シズクがさりげなくフォローをしてくれるのに。少し寂しさを感じながら、パフェを頼んでみんなで食べ始めた。至福の時だ。


 食べ終わって、熱い紅茶を飲んでいる。熱すぎてちょっとずつしか飲めないけれど、パフェを食べたあとにはとても美味しく感じる。これがアフタヌーンティーってやつ? シズクも来れたらよかったのに。次は、きちんとみんなで来よう。

 そんなことを考えていたら、スマートフォンが鳴った。シズクからのメッセージだ。


「大事な用事ができたから、私は今日帰れない。気にしないで。」


 家族と食事にでも行くのだろうか、と思ったけれども、なぜか文面が素っ気ないことが、少し気にかかった。シズクがいないとやっぱり寂しいから、今度は絶対に来てね。スタンプも付けてそう返したけれども、それは既読になることはなかった。いつもだったら、すぐに返ってくるはずなのに。


 早朝。政府の人から緊急の招集で起こされた。眠い目を擦りながら会議室へと向かう。

 そこには、沈痛な表情の政府の人たちがいた。みんなも集まっていた。政府の人たちは申し訳なさそうに、私たちに告げた。シズクが死んだ、ということを。


 いわく、昨日シズクは以前の依頼で壊滅させたギャングの生き残りから、脅迫を受けたらしい。内容はこうだ。一人で来い、さもなくば家族の命はない。その言葉通り、彼女は一人で向かった。私たちには、ただ帰れないとだけ告げて、助けを求めずに。そして、彼女は殺された。


 政府の人は、私たちのやりとりも、いる位置も知っているはずなのに、なぜ教えてくれなかったのだろう? 少なくとも、一人で行かせるよりはマシな結果になったはずだ。せめてシズクは、シズクは死なずに済んだかもしれない。怒号が飛び交う会議室。政府の人たちは何も言わず、ただ申し訳なさそうな顔をして、俯いているだけだ。あんなに、頼ってくれていいと「すべては、書に記された通りに」言っていたのに。親代わりに思ってくれていいと、そう言ってくれたのに。心が冷えていく感じがする。私は立ち上がって、みんなの方を向いて言った。


「早く行こう。シズクが待ってる。」


 やるせない怒りと共に、聞いた場所へと向かうと、シズクと再会することが出来た。高架下に吊るされた、変わり果てた姿のシズクと。彼女の身体と、家族の身体は吊るされていて、その下には首だけになったシズクがいた。その口には、何かが突き刺すように入れてある。耐えきれず、目をそらすように上を見ると、点と点を結ぶように、血に染まったシズクの父親の下半身が見えてしまった。昨日のパフェが、液体となって地面を汚した。


 政府の人たちの人払いが甘く、通行人たちが写真を撮り始めている。綺麗で美しかった、シズクの変わり果てた姿を。彼らは口を押さえながら写真を撮る。オシャレが好きで、父から貰ったアジサイのピン留めをいつも大事に着けていたシズクの顔を。私は、彼女の姿が晒し者になってしまうことが嫌で、こんな姿を彼女も見られたくはないだろうと思って、静かに、シズクとその家族に、魔法の火を放った。


「ねぇ、ウララ。」

 冷え切った声で、ウララを呼ぶ。

「あなたの魔法なら、コレをした奴らの場所がわかるでしょう?」

 少し酸っぱい匂いをさせながら、蒼白な顔のウララは静かに、力強く頷いた。


 ウララの力を使って痕跡を辿り、私たちはギャングを皆殺しにした。そしてその場にいた、全ての関係者も。私はこと切れた彼らを屋上に集め、火を放つ。シズクたちを弔った、あの火を。屑みたいな彼らにも、役割がある。殺されてしまった者たちへの、鎮魂と葬送という役割が。火は彼らの脂肪を蝋とし、灯籠のように地上から空を、煌々と照らしあげた。シズクと、その家族を空へと送り出すために。私はその炎を見て、綺麗だな、とつぶやいた。シズクもきっと、そう思ってくれていることだろう。

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