魔法精神病院 ー第二病棟ー

ちびまるフォイ

病気になる病院

異世界から現実に帰還した男は悩んでいた。


「これからどうやって過ごそう……」


元々、社会不適合者で異世界への現実逃避を求めた。

やがて現実が恋しくなって戻ってきたものの、現実に居場所はない。

残っているものといえば、異世界で習得した魔法だけだった。


久しぶりに帰った現実でそのことを友達に相談。

友達の答えはあっさりしたものだった。


「病院でもやれば?」


「びょ、病院!? 医者じゃなくて、俺は勇者だよ?」


「魔法なら治療の難しい心の病気も治せるんだろ」


「たしかに!!」


やがて魔法精神病院が現実世界に爆誕した。

1ミリも医学知識などないが、魔法がだいたい解決してくれる。


「うつ病で……」

「まかせてください。魔除魔法・ヒール!!」


「自律神経がぶっ壊れてしまって……」

「魔除魔法・ヒール!!」


「なぜか幻覚が見えるんです」

「ヒール!!」


さまざまな患者が大挙して魔法精神病院を訪れる。

でも使う魔法はひとつだけだった。


「ありがとうございます、治りました!」

「気分はれやかです!」

「薬も飲まなくていいなんて最高!」


「魔法治療ですから!」


患者に感謝されるのはうれしかった。


薬もカルテも不要で、診断も治療も秒速。

早くて完璧な魔法精神病院はまたたくまに人気となった。


「先生、今日もすごい列ですよ」


「めっちゃ病院前に並んでる……」


魔法精神病院の人気は一気に広がり、遠方からの患者も訪れた。

それでも呪文イッパツで治っちゃうので混雑はなかった。


「ヒール!」

「ヒール!」

「ハイヒール!」

「ヒール!」


すべての患者を終えるときにはもう喉はガラッガラ。

呪文を唱えすぎて自分の魔力切れで倒れてしまうほど。


大人気となった魔法精神病院の噂は、

最初に魔法治療を進めた地元の友だちの耳にも入る。


しばらく経ったある日の休日にお互いの近況を話した。


「噂は聞いてるよ、魔法精神病院が大人気なんだって?」


「まあね」


「すごい評判らしいじゃないか。すぐに治して待ち時間ゼロ。

 他の病院よりもしっかり治してくれるって聞いたよ」


「魔法だからあっという間さ」


「そりゃさぞ大儲けできただろうな、うらやましいよ」


「いやそれが……」


「え?」


「最初は大人気だったんだけど、客足がぴたり途絶えちゃって……」


「あれだけ大人気なのに?」


「魔法で一瞬で治しちゃうから、リピーターがいないんだ。

 ほかの病院みたいに何度も来院する必要もないし……」


「まあたしかに」


「今の患者が全部治療し終わったら、もう誰も来なくなるよ……」


「おいおい、落ち込むなって。お前が精神病になっちまう」


「お先真っ暗なんだもん。どうすればいいのか……」


せっかくうまくいったように思えた魔法精神病院。

実情は焼畑農業のごとく、患者を治療し終わったら終了の消耗ビジネスだった。


もしこの患者が来なくなったら再び無職となり、

現実世界に居場所が見いだせない魔法使いになってしまう。


見かねた地元の友だちはあるアイデアを提案した。


「それなら、もうひとつ病院を建ててみようよ」


「もうひとつ? 何言ってるんだ。

 患者を治しきったらどうしようって話をしてるのに

 新たに病院なんかつくっても意味ないだろ」


「お前の魔法、体の変化とかもできるんだろ?」


「まあ……。それがいったいなんの意味が?」


「いいからいいから」


友達の進言をまにうけて、新しい病棟がまたひとつ誕生した。

今度は精神病院ではなかった。


新しい病院ができると、ふたつの病院どちらも相乗効果で大人気となった。

連日患者の絶えない話題の病院となり、テレビの取材も入る。


「今日は今話題の病院へ独占取材に来ました!

 先生、今日はよろしくお願いします」


「はあどうも。テレビは慣れないですね」


「元々は精神病院だけだったとか?」


「ええ、ですが患者が徐々に減ってきたので新病棟作りました」


「そうだったんですね! 新病棟はどちらに?」


「あっちです。整形専門の魔法病院となります」


「すごいですね、魔法で整形してくれるんですか」


「はい。理想の顔も体も魔法により一瞬で変化させられます。

 痛みもダウンタイムもなし。気に入らなければ戻せます」


「最高の整形病院じゃないですか!!」


「こんなにも現実に整形したい人がいることにも驚きました。

 それにおかげで精神病院のほうも患者が増えてよかったです」


テレビのリポーターは首をかしげた。


「先生、ちょっと不思議なんですが。

 どうして整形病院作ったら、精神病院にも患者が増えるんです?

 話題性とかですか?」


「いえいえ、そうじゃなくて……」


魔法使いは精神病院に並んでいる、同じ顔の集団を指さした。




「みんな同じ理想の顔になったら、

 自分を認識できなくなって心の病気になるんですよ」

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