〈第三話〉 初めての依頼
「ん。。。もう、朝だあ。。」
殺風景な部屋の中で、わたしはひとり呟いた。ここは、ならさんの家の一つの部屋。わたしが一年間借りる部屋。昨日は結局荷解きせずに寝てしまったから、シンプルなベッドしかない。外はまだ冬だからか日が昇ってなかったけど、部屋の外からなにかいい匂いがする。たぶん、ならさんが朝食を準備してるんだと思う。
(まだ、ベッドで寝たいけど、起きるかあ。。。。)
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身支度を終え、わたしはリビングに向かった。わたしの部屋はリビングの隣にあってリビングとキッチンは南にある。お風呂や洗濯するとこはわたしの部屋の向かいとそのとなり。ちなみに、ならさんの部屋は北の方。リビングとキッチンとは真逆のほう。
「おはよー。」
質素なカウンターからならさんが顔をヒョコっと出した。身支度を終え、朝ごはんまで作り終ったみたい。
「どーぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
ならさんが出してくれた朝食には、美味しそうなバターが塗られたパンにきれいに切られたりんご、そして温かいコーヒーがあった。
(こんなに豪華でいいんですか!?)
久しぶりのちゃんとした朝食にわたしは内心興奮した。
実は、ここ数日間は魔法店に行くために馬車にずっと乗ってたからナッツと硬いパンしか食べてなかった。
「いただきまーす。」
「あ、いただきます。」
もぐもぐと先にならさんがお構いなく食べ始めた。わたしも続けてパンを一口かじった。
「どー?おいしいー?」
「はい!美味しいです!なんか、パンがおいしくて、バターもこうおいしくて、なんか、こうふわーって感じでおいしいです!」
「なるほどー。」
興味深そうにならさんは頷いた。あんまり人に説明するのは得意じゃないから、伝わったみたいで安心した。これは、成長したかもしれない。ふふん。
「あ、そういえば、今日はこれから仕事なんですよね。」
「いふぃおえ。(いちおね。)」
「えっと、そのわたしって何すればいいんですか。。?」
ふと、昨日から続いてた悩み「助手」について思い切って聞いてみた。
昨日は軽くあしらわれたけど、今日なら教えてくれるよね?(多分。)横目でならさんを見ると、少し頭をひねっていた。これは、たぶん忘れてたんだろう。
「うーん。何をするのかはその子によるし、わかんないなー。」
「じゃあ、ならさんはなにをするんですか?教えてくれませんか。。?」
「そんぐらいでいいなら。」
やったー!!これで、少しは情報がゲットできるよ!
しかも、ちゃんと質問できた!!えらい。わたしがんばった!
「基本的に、魔女は魔法店に来たお客さんの依頼を受けてそれをやるんだ。でも、ぼくたち、名のある魔女は専門の分野があるんだ。例えば、わーさんなら和解の依頼を専門に受けてるんだよ。」
「なるほど。つまり、ならさんはサヨナラだから別れを専門に。。?」
「うん。そーいうことになるね。」
なるほど。なるほど。なんとなくわかってきた。
つまり、ならさんは結構すごいんだ!あ、あと、別れの依頼を受けるんだね。なんか、それって悲しいなあ。
「ごちそーさまでした。」
はっ!気が付いたら、ならさんもう食べ終わってる!?
「ほら、もう行く時間だよー?」
「は、はい!急ぎます!!!」
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「いらっしゃいませー。」
静かな部屋に人間味のない声が響く。
わたしとならさんはソファに座っていた。そんなならさんが見つめる先には扉の前の金色のくせ毛の長い髪の女性に向いている。きっと、ならさんの「お客さん」なんだと思う。
ふー。わたしは深呼吸をした。
(これから、仕事が始まるんだ。。。!)
もう一度深呼吸をして、呼吸を整える。やっぱ、緊張する。。なんか、昨日も来たはずの魔法店は前回よりも恐ろしく見える。うう。。胃が痛いよお。もう、帰りたい。。。。
「それじゃ、ぼくの仕事場にいこっか。」
ならさんは手慣れたように、女性を連れて行った。わたしもどうにかついていく。女性は高そうな、貴族用の服を着ていた。貴族の中では地味だが、庶民にとってはとても目立つ。帽子を深々かぶっていたが、ちらりと見えた灰色の瞳には生気が感じられない。よく見ると、髪もぼさぼさだ。貴族の人っぽいのに変なの。
ガチャ。
個室のドアが開いた。中には小さな机と4つの椅子が向かい合わせに置いてある。ここが、ならさんがお客さんと話すとこ。今日の朝に教えられた。
「どーぞ。おかけになってください。」
ならさんが座りながら言った。女性はならさんの言う通り無気力に座った。わたしはならさんに言われてならさんの後ろに立った。確か、まだわたしに何ができるかわからないからだ。
「さーて。キミはどんな依頼かな?」
女性がこちらを見る。あれ?なんかしちゃったかな!?
怖くなりならさんに視線を送る。
「あー。安心して。この子はぼくの助手。悪い子じゃないよ。」
安心したように女性が息をつく。なーんだ。そういうことなんだ。気持ちの整理がついたのか彼女は帽子を外した。
「。。。!!」
女性の顔は傷だらけだった。顔が腫れてたりあざができていたりしていて、原形を留めていなかった。そして、腕にも同じようなあざなどがあった。どのように生活したらこんな顔になってしまうのだろう。想像しただけでも恐ろしい。
「あなた、サヨナラの魔女?」
かすれた声が聞こえた。
「うん。そーだよ。ぼくがサヨナラの魔女。よろしくね。」
「そう。私はレイ。後ろの子は?」
「ら、ライナです!えっと、好きな食べ物は紅茶で、あ、あとならさんの助手でしゅ!」
「「。。。」」
や、やっばーい!!嚙んだー!!!嚙んじゃった!!!笑われちゃうよー。。もしくは、ならさんのイメージがああああ。。。。。。ちらっと、レイさんのほうを見ると俯いていた。やばいよおお。でも、肩を見ると小刻みに揺れていた。
「ふふふ。変なの。」
「へっ?」
思わぬ言葉に間抜けな声が出てしまった。彼女はというと、腹を抱えて笑っている。何か面白いことしたかな。。
「えっと。。?」
「あ、ごめんなさい。その、挨拶の仕方が不思議で。」
「え、そうなんですか?」
ううう。。
挨拶とかは平気だと思ったのに。。一生の不覚だあ。
「フツウは好きな食べ物なんて言わないと思うわ。」
「うそ!?」
し、知らなかった。。仕事の時とかはそうだと思ってたのに。
「というか、あなた16歳?」
「はい。そうですけど。。」
「じつは、私もなの!」
バッとレイさんが立ち上がる。
わあ。さっきまでの反応とは大違い。なんか、テンション変わったなあ。
「嬉しい!あんまり同い年の子見ないのよね!!」
やばい。苦手なタイプだ。なんか、明るくてみんなから好かれてそう。でも、まぶしすぎる。。!消滅しちゃうよ!!
しかし、離れたいわたしとは違いレイさんは距離を詰める一方。
「実はね、私一応貴族なんだけどね、一度も屋敷から出れなかったのよ。」
(ん?)
「しかも、屋敷にくるのは求婚してくるおじさんや男の人ばっか。でも、最近はそれすらなかったわね。」
(この流れは?)
「それでね、同性の友達とかできなかったのよー。」
「えっと、あの。。?」
「だからね、私の友達になってくれないかしら?」
(ああああああああああ)
やばい。一番大変な奴だあ。なんかこういうのってあとあと難しい関係とかになったりして大変になるタイプだよ。しかも、断りづらい。逃げ場はないし、なにより重い。理由が重すぎる。加えて、この子はいい子だよ。絶対。断りづらい理由3点セットが揃ってるよお。。
「お願いしてもよろしい?」
「う。。その、わたし普通じゃないですよ。」
「私もよ!だってほら。この体だって、フツウじゃないんでしょう?きっと、似た者同士なんだわ。」
「えっと。」
ならさんのほうを見て助けを求める。しかし、こっちを向いてくれない。ううう。。
「友達になりましょう!お願いします!」
ううう。でも、友達かあ。憧れだもんなあ。わたしは意を決した。
「わかりましたあ。。」
「やったー!」
レイさんが嬉しそうに飛び跳ねた。相当、嬉しかったんだろう。まあ、わたしも嬉しいけどね。
コホン。
「終わったかな?依頼の話続けてもいいかなー?」
「あら、ごめんなさい。」
おお。さすが大人。空気をちゃんと読んでる。
「それで、キミの依頼は何かな。」
さっきの楽しい雰囲気が嘘だったかのように空気が暗くなった。メリハリがちゃんとついてる。すごい。レイさんも年上みたい。
「私の依頼ですよね。」
レイさんは真っすぐならさんのほうを見つめた。さっきまで、生気のない瞳はどこか輝しく見えた。彼女がゆっくりと口を動かした。さっきまでのかすれた声ではなく、とても透き通る声で。
「殺してほしい人がいるんです。」
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