第8話

エピソード8:近視遠望


配車先に現着すると、既に桂が待っていた。

お互いに無言で軽く会釈して車のドアを開ける。

「こんにちは。すみません、お呼びだてしてしまって、乗車してすぐですが、この先で車を停めてお茶でもしませんか?僕のよく行く喫茶店があるんです。」


そして郊外へと向かい、等海はタクシーのメーターを【回送】に切り換えようとした時、桂が「料金メーターはそのままで、凪海さんと時間を拘束するのですから、売上げの邪魔はしたくないので、だからメッセージアプリでなく無線室からお願いしたんです。」と桂が言った。


コインパーキングに車を停めると街外れの小さな古い喫茶店に入った。

「ここのコーヒー、なかなか美味しいんですよ。マスターのこだわりが半端なくて、、、。」

桂はマスターおすすめのキリマンジャロコーヒーを飲みながら、ボソッと話し出す。

「決して興味本位とかでなく、純粋に老婆心ながら、先日の凪海さんの事が気になってしまって、、、確かに凪海さんだって、ひとりの人間なんだから、本音と建て前があるのは当たり前だけど、この間の言動がどうしても気になってしまって、、、。」


「えっ!」等海は一瞬絶句した。

そして「そうかもしれませんけど、そんなの大きなお世話です!もう、推しのみなさんが知っている凪海はどこにもいないんです!私の名前は、千池等海です!だからもう凪海の事は忘れて下さい!!」

そう言い放つと、等海は席を立ち、ひとり店を去って行った。

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