金の魔術師~金稼いで強くなります~
ねいげつ
第1話 億万長者になるには脱獄しかない
自分が特別な人間だと思ったことはあるだろうか?
選ばれし血筋、恵まれた生まれ育ち、そして自分はそれを手にする権利を持っているのだと。
金さえ有れば解決する。大人は何も教えてくれない。
物心がついた頃からその真実に気づいてしまった僕は果たして――
3歳の頃、砂場で遊んでいたときにたまたま拾い上げたアルミの破片を持ち帰り、それを粘土のように溶かして遊ぶ着想を得たことがインゴットづくりに励むきっかけだった。それ以降、河辺や海へ旅行に出かけた時には必ず、金属の破片を見つけ出しては袋に詰め込む。
親や友達からは奇行だと思われ、父からはしかめっ面をされたが、家で錬成を行うのが旅行の後のお楽しみとなる。お年玉などを貰う機会がある度に、メッキで作った貯金箱に小銭を放り込み、その中に偽造したコインを混ぜておくのが密かな趣味だったのだが、当時は造りが荒く、後で家中の大騒ぎとなってしまった。
「お前それは犯罪だぞ」とこっぴどく叱られ、いつしかインゴット制作を自粛するようになってからは、父にパソコンを買ってもらってプログラムを書いたり、
一方で、解約できない投資信託に2,000万円を突っ込もうとした父、広告に釣られて詐欺に引っかかりそうになった母。あの時は危うかった。
とりわけ資産の活用能力においては平均的な家庭である。
小学生時代から家庭内のリテラシーを回復させるために啓蒙を行い、セーブした総額は4,000万円以上。母からは甘やかされるようになった。
「ほんと困った子ね、あなたが賢いことはもちろんよく知ってるわ」
「だったら学校の勉強も頑張りなさい。もう少し本腰を入れさえすればもっと良い大学に入って、大企業にも入れるでしょ?」
「まだ若いあなたがお金のことを過剰に心配しなくて良いのよ」
「わかった。母さん、僕は将来、大企業を目指しているのは本当だ。でも今はもっとやりたいことがある」
そう、表向きは外資系の金融企業に入ると宣言していた。年収1000万以上が見込める。しかしその選択は、時間と税金を犠牲にする。
既に大企業に就職することは眼中になかった。まだ他にも手はずはあるはすだと――まぁ、グレーだとは最初から分かってたけどね。
こじんまりとした6畳程度の個室で一人きり。
結果として両親の期待を裏切ることになった。特に父さんは失望していた。
別に更生の余地はあるし、自分の中では全てが終わった感覚は無かったが、再判決の機会は半年後で、普通に考えれば大学受験の機会を逃したのだ。
面会は月に1度。昼間は施錠されていないけど、職員の監視がある。周囲は僕と気が合わない連中ばかり。インドアっぽい外見だから全く運動してなさそうと思われがちだけど、頭を使うことに大半の時間を費やす人でも、筋トレをしたほうが脳は活性化し、パフォーマンスが向上するのだ。
夜は毎日スクワット1000回、2秒で1回とすれば休憩なしで約60分で完了させ、あとは腕立て100回、腹筋200回。それが習慣となりつつあった。
「フゥ――」
0時が過ぎた。職員がやって来る時間まであと6時間。
今回冤罪にかけられて捕まったのも、ただの失敗ではなく何らかの巡り合わせなのかもしれない。神や天の導きなんて無いと分かっていても、人はそう信じてしまう生き物なのだ。
もちろん、僕は天の声が聞こえたり、衝動的に何かをやったりするはずがない。
だが突然……
「あなたは億万長者になる資格がある。今すぐ来なさい」
突然、ドアの向こう側から『天の声』がしてきた。
「さあ来なさい。今回の機会を逃してしまえば次はありません」
何だろうコレ、投資詐欺にも及ばない勧誘か?期間限定を煽るのはテンプレだな。
「何をぐずぐずしているのです」
「異世界への扉は既に開いておりますよ」
「あなたが通貨発行権の主になるのです」
「絶対に……後悔するぞ!!!」
何ださっきから、ぐるぐると色んな声が頭の中で響いてるかのようだ。
そうだ、これはきっと実際に聞こえてるのではなく、単に心の声が具現化しただけだと――
誰もいない壁に向かってそう唱えながら、手にはなぜか針金を取り出していた。
寄せ集めの金メッキで出来ており、細い糸で連結されているそれぞれの針金は形状が微妙に異なる。まるで探偵モノのトリックに出てくる代物だ。
金庫であればピッキングを何度かやってみたことがある。いやむしろ閉じ込められてるのは自分か。
確かこれはオートロック。旧式であれば薄い紙を差し込んでセンサーを遮れば簡単に開くらしいけど、その逆は考えたことがなかった。脱獄のテンプレと言えば、鉄の檻を怪力でねじ曲げるとか、柵のわずかな隙間から体の骨を脱臼させるとか、床に穴を開けて通路を作るとか、創作にありそうなアナログ的なことばかり。でもここは普通の個室なんだよ。
「参ったなぁ~」
カチャリと大きな音がする。その瞬間、背中がブルッとなった。
前なのか後ろなのか、部屋の壁全体から鳴っているのか判別不能だ。
霊なんて信じるタチじゃない。かといって他のやつらによるイタズラだとしたら、まずはノックとか罵声だろうし。誰かが僕を助けようとして侵入してきた場合を除いて。
「いや、僕は正常だ……開いているはずもない」
ゆっくりと腰を上げて、扉の前まで近づいた。
「進路は大丈夫なの?」と母さんの声がする。ただの空耳だ。
部屋の奥からはっきり聞こえる秒針の音。
実家の部屋にある、筆記道具や椅子の脚などに偽装工作済みのインゴットの数々。
夜中、デスクトップPCの前で作業してた時の僕。
そのすべてが走馬灯のように流れた。
手にノブを当てた瞬間、いきなり「キィ――」と耳障りな音を立てて、冷たい空気が急に入り込み、職員の声が耳元で響き渡った。
「脱獄者だ!捕らえろ!」
廊下から追手がやって来る。まさか現実でもこんなセリフを言うのか?
何やってんだ、ドアを閉めろ。
それとも既に出る時間になったのか?頭が混乱する。
容疑さえ晴れれば、予定通り僕は晴れて外資ファンドの社畜と化し、ひそかに企業計画を立てていくのだ。
気がついたときには、なぜか廊下の中に突っ立っていた。いったい何が……再び足音が聞こえてくる。
二人の男に追われながら、廊下の奥にある暗くなった死角を目指してひたすら全力疾走した。先ほどの天の声からして何もかも変だ。まさか逃げ切れたのか?
突如、真上から金槌のような黒影が振り落とされ、意識が奈落の底へと沈んでいく。
「ぐわっ……!」
目が覚めるとまだそこはムショの中だった。でもさっきの場所とは違う。映画で見るような鉄の檻が見渡す限り奥まで続いていて、がらんとしている。誰かが収容されている気配もなく、異様に明るく、窓から白い光が差し込んでいた――全く別の場所だ。
手にはまだ反射してきらめく針金があり、ポケットには何か異物感がする。
「こんなもの、いつ作ったんだろ?」
金貨ソムリエとして、お菓子のレプリカや本物を長年比較し続けた自分が見間違えるはずもない。
一カ月半前に見た30グラムの買取価格は約50万といったところか。
まさしく本物だ。
僕は無意識的に金貨を日が差す方向へと手を伸ばした。
次の瞬間、それは太陽の光で汗をかくように溶け始め、手のひらに沿って金色の液体がこぼれ落ち、分かれた軌道が手首に吸い込まれていく。
やがて肌が元通りに見え始め、その代わりに手首には円状の金が変化し、出来上がった腕輪が袖の中に収まる。
そして青色のスクリーンが近未来風の端末のように、突如出現した。
――――――――――――――――――――――――
「金貨の所有者が『カリス』に変更されました。」
【ルール】
- 肉体の一時強化は対価を支払うことで可能
- 魔力は所持金の増減に応じて比例する
現在の信用度:0ルクス
――――――――――――――――――――――――
――
「きんまじゅ」は処女作となります。
第1章(計14話)までは毎日18:00に連続投稿を目指しますので、
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