値段のない帳簿と、星河に残るきみ
@tsukino_rinka
序章 橋の上の白い影
橋の欄干のそばに、一つの影が、ほとんど夜の色に溶け込んでいた。
風に揺れる、雪のように白い長い髪。
その白さはこの世のものとは思えず、凍りついた月光か、あるいは初雪そのもののようだった。
彼女の背後を、猛スピードで走り抜ける車のヘッドライトが、爆ぜるような閃光を放つ。
強烈な光が、一瞬で闇を引き裂いた。
その光が消える直前の刹那、
僕は彼女の青白い頬に、かすかな、しかし確かな光を見た。
──星屑のような、冷たい光。
それは瞬く間に消え去り、
水滴の反射か、あるいは錯覚だったのではないかと思わせるほど、儚く奇妙だった。
だが、その一瞬の気の緩みが、
僕の身体から完全にバランスを奪った。
刺すような寒さが、無数の針となって皮膚を貫く。
窒息するような苦痛と、極限の冷たさの中で、意識は急速にかすみ、深みへと沈んでいった。
完全な闇に飲み込まれる直前、
さらに大きな水音が、かすかに聞こえた気がした。
――彼女は……誰なんだ?
そんな思いを抱いたまま、
僕はゆっくりと沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます