値段のない帳簿と、星河に残るきみ

@tsukino_rinka

序章 橋の上の白い影

橋の欄干のそばに、一つの影が、ほとんど夜の色に溶け込んでいた。


風に揺れる、雪のように白い長い髪。

その白さはこの世のものとは思えず、凍りついた月光か、あるいは初雪そのもののようだった。


彼女の背後を、猛スピードで走り抜ける車のヘッドライトが、爆ぜるような閃光を放つ。

強烈な光が、一瞬で闇を引き裂いた。


その光が消える直前の刹那、

僕は彼女の青白い頬に、かすかな、しかし確かな光を見た。


──星屑のような、冷たい光。


それは瞬く間に消え去り、

水滴の反射か、あるいは錯覚だったのではないかと思わせるほど、儚く奇妙だった。


だが、その一瞬の気の緩みが、

僕の身体から完全にバランスを奪った。


刺すような寒さが、無数の針となって皮膚を貫く。

窒息するような苦痛と、極限の冷たさの中で、意識は急速にかすみ、深みへと沈んでいった。


完全な闇に飲み込まれる直前、

さらに大きな水音が、かすかに聞こえた気がした。


――彼女は……誰なんだ?


そんな思いを抱いたまま、

僕はゆっくりと沈んでいった。

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