先輩は未知の生物かもしれない

kei

先輩は未知の生物かもしれない

ひとつ上の学年の先輩が好きだ。なんでこんなに好きなのかわからない。でもとにかく好きだ。好きすぎておかしい。


朝、顔が見られると思っただけでドキドキが止まらない。挨拶なんてできた日には一日ハッピーである。


真理ちゃんおはよう、なんて名前まで呼ばれて、さらに前髪に自信がある日だったりしたら最高である。廊下でうっかりスキップして怒られようと、この高揚は止まらない!


まあそこまではいい。問題は、先輩が人間じゃないかもしれないということだ。


「何言ってんのアンタ」


と言うのは、由香里である。ランチタイムの楽しい恋バナってやつをしようとしていたところだった。


「人間じゃなけりゃ何なの」

「由香里は信じてくれないの?」

「真理、正気に戻りな!」

「恋が正気で出来ようか!いや、できない!反語!」


ハイハイ、と、由香里は軽くいなす。


「でも何で人でなしってことになるのよ」

「人でなしじゃなくて、人間じゃない未知の生物よ」

「何でもいいけど、何で?」

「聞いて驚け!」


あれは去年の春。私はピッカピカの新入生だった。桜の下をトボトボと歩いていると、突風が吹いた。


本当に吹雪みたいに散るんだ、とびっくりしていたら、桜が渦を巻いて、天に昇っていった。その渦の中心にいたのが先輩である。


先輩は、私のほうを振り返り、微笑んだ。


「ひとめぼれフィルタが発動して大げさに見えたんじゃないの?」

「ひとめぼれは、そうかもしれないけど、それだけじゃないの!」


あれは去年の夏休み。市立図書館に通い詰める私は、勿論先輩目当てであった。


静かな図書館のカウンターのほうから、急に大きい下品な声が聞こえた。司書の若いお姉さんに、おっさんが絡んでいるようだった。


助けたいのに、脚が竦んで動けない。


そこで、先輩がスタスタと近づき、そっとおっさんの背中に手を当てた。すると、おっさんはスッと黙り、操り人形のようにそのまま退館した。


その先輩の背中の頼もしさったら!


「いや、それは凄いし、超能力者かもしれないけれど、超能力者でも人間でしょ」

「他にもあるのよ」


あれは秋のこと。いつものように後をつけていると、ある日、先輩は、黒いスーツを着た男に囲まれていた。


「待って。それヤバくない?」

「スーツの男はヤバいけど、続きを聞いてよ!」

「ヤバいのはいつものように尾行してるアンタのことだよ!」

「ここからなんだって!」


黒いスーツの男は、懐から取り出した銃で先輩を撃ち逃げた!


倒れた先輩を見て、慌てて警察と救急車を呼ぼうとしたら、先輩は、スーツの男が消えたのを見計らって普通に立ち上がった。


制服は赤い血ではなく、銀色の液体に染まっていたが、身体の穴は見事に塞がっていた。


口から弾を吐き出す姿もカッコイイのなんの。


「アンタ、それ、見たのね?」

「うん。だから、未知の生物かもって、」


そこまで話して、意識が暗転した。


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真理が起きたときには、昼休みが終わろうとしていた。


「由香里?私、何話してたっけ?」

「先輩がかっこいい、っていつもの話よ」


昼休み終わるから行こう、と言うと、素直についてくる。可愛い。


せっかく、『カッコイイ先輩』として地球人の真理のハートを掴んでいるんだから、あの人ももう少し自分の正体を隠す努力ってやつをしてほしい。


そうじゃなきゃ、数世代がかりの地球潜入ミッションなんて破綻してしまう。前途多難である。頭痛い。

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