第10話 旗艦を制圧していい?

カタリナが宇宙服を脱ぎ捨てたちょうどその時、

1名の士官風の兵士が現場を確認しに訪れた。


早々に立ち去ろうとしたが、見つかって呼び止められる。


「おい、お前!説明しろ!」


「は、はい!

 ミサイルが命中したようですが、不発だったようです!

 そのまま抜け落ちたようで、すぐにバルム・パッチで応急処置が完了しました。」


その報告を聞き終わった士官がその処置痕とカタリナを相互に見ながら近づいてくる。


逃げる訳にもいかず、カタリナは直立したまま待機する。


「見たこと無い顔だな。」


「はい、新兵です!以後よろしくお願いします!!」


「おかしいな・・この船に女はいないはずだが。」


「あぁ?いえ、よく間違えられますが、自分は男であります!」


士官が顔を近づけてくる。

【カタリナ殴り倒したいボルテージ(1→6/10)】


士官はカタリナの第一ボタンを指ではたく。

簡単にボタンがはじけ飛んで豊満な胸の谷間に見えた。


「ほぉ?これでか?」


男は嫌らしい顔をさらに近づけてきた。

【カタリナ殴り倒したいボルテージ(6→99/10)】


掌底が高々と振り上げられていた。

士官は下あごが砕かれ歯が数本飛び散ったあと、一回転して吹き飛んだ。


「もう殴る!あ…あれ?

 しまった考えるよりも先に手が出た……こいつ死んだかな?

 よかった。一応生きてるな。」


痙攣しながら目を回している士官の体をまさぐって電子キーらしきものを手に入れた。


「コイツ偉い奴だったのかな?

 キモかったけど、キーが得られてラッキーだと思うことにするか。

 しっかし、モカぁ・・・意味ねえじゃん、この服!

 女いねーってよ!逆に目立つわ!!」


人の気配に気を配りながら、少しずつ進む。通常の扉は電子キーで自動で開閉される。

そして「II」と書かれた扉を見つけた。


「武器庫か…。Lv2ロックね。

 ここからが入室許可が関係するんだな。」


かざす。「ヴッヴー!」

派手な音がして入室拒否された。


「なんだよ!大物ぶりやがって、あいつ、下っ端じゃねーか!

 このカードほとんど意味ねーじゃん!キモ損だわ、キモ損!」


さらに忍び足で進む。皆、戦闘中のため、廊下を歩いている者はいない。


コルベット艦の艦内構造を知るカタリナは容易に艦橋の扉の前にたどり着いた。ここにも「II」のマークがある。士官しか入室できないようだ。手持ちのカードでは拒否されるだろう。レーザーブレードで壊して入ってもいいが、できれば綺麗な状態で手に入れたい。


カタリナは扉の隣の壁に背を預けながら、ノックを行った。


「なんだ!?どうした?!」


中から声が聞こえる。再度ノックする。


「なんだ?おい!聞こえないのか!? お前、見てこい!!」


しばらくしてドアが開く。

男の影が見えたその瞬間カタリナはそいつの首に腕を回して引き寄せた。


そのまま首を絞める。

カタリナの胸に顔を押し付けられながらも首を絞められるその男は、幸せそうな、そして苦しそうな何とも言えない表情のまま落ちた。


胸元をまさぐると「II」のマークがある電子キーを入手した。

右手のレーザーブレードだけを起動してカードを当てて艦橋の中に入った。


提督兼艦長と思われる偉そうな帽子をかぶった中年男と、2名のクルーが珍妙な訪問者に驚いた。


「ご機嫌よう!皆さん、私は赤毛猫海賊団の……あ……眼帯ない…。

 くそっ!赤毛猫海賊団のサクラモカだ!

 この船を頂きに来た。無駄な抵抗をせずに降伏しろ!」


艦橋内に緊張が走る。


だが、艦長の男は鋭い目でカタリナを睨みつけた。

そして手元の引き出しからレーザーブレードを持ち出して起動する。


「おっ!やる気!?」


カタリナの目が輝いた。艦長の男は瞬きもせずにカタリナを睨みつける。殺気がほとばしっていた。


「小娘、いい度胸だ。一人で乗り込んできた勇気は認めてやろう。」


そのまま、少し腰を下ろして重心をやや前側に傾けた。

ブレードがゆっくりと傾いて、カタリナの方を向く。


カタリナも電子キーを胸ポケットにしまって、レーザーブレードを艦長に突き付けた。

双方一歩、一歩と間合いを詰める。次の一歩で二人の間合いは重なるだろう。


艦長が先んじた。

一歩力強く踏み出した後、叫びつつブレードを振り切った。


「秘奥義虚空閃牙(ヴォイド・ファング)!!」


「はへ?」


一瞬びっくりした顔をしたカタリナは、それでも容易にかわして、その体勢のまま、艦長のレーザーブレードの柄の部分を叩き切った。


バンっ!!


艦長のブレードはエネルギーが暴発して小さく爆発した。


艦長は帽子が吹き飛び、顔が煤だらけで髪がチリチリになっていた。

そのまま、膝をつく。


「うわ……何それ、よっわ。あれか、お前、中二か!」


「無念……」


そのまま倒れ伏した。


「あ…気を失うな!お前が全艦に降伏を指示しないと……。

 まぁ、いいか。おい、お前!」


剣先をもう一人の士官に向けて、指示をした。


「お前が全艦に停戦、および降伏するように指示しろ。

 お前達の旗艦と提督は赤毛猫海賊団によって打ち破られた。

 無駄な抵抗はするな。抵抗しない限り命までは取らない。

 ってな!」



その士官によって全艦船に向けて停戦命令がなされた。

そこからはサクラモカの指揮もあって、円滑にクルーによる艦船、積荷、物資の譲渡が行われた。


最後に敵乗組員は怪我人も含めて脱出ポッドに全員詰め込まれて星系基地に向けて射出された。

かくして、ほぼ無傷で5倍の戦力の敵艦隊の全拿捕と積荷強奪に成功した。


ネコパンチ号はミネに任せて、サクラモカも敵旗艦に合流した。


「やったね!おねーちゃん!さすがだよ!!」


二人は軽く抱き合い、ねぎらいあった。


「これは結構な戦利品だね。

 とりあえずこの辺りは危険だから、この艦隊に乗ってグラーニャ星系要塞まで戻ろう。

 これだったら海賊船を逮捕した官軍を装える。」


「えぇ・・・?

 赤毛猫海賊団が全拿捕したのをもっとアピールしようよ。」


「駄目だっつの。

 6隻のコルベットを15人で扱ってるんだよ。

 オートモードでもギリギリ。

 敵に襲われたらこのお宝がパーなんだから!

 たまには私の言うこと聞け!」


「ち・・・まぁいいや。じゃあ帰ろう!」


赤毛猫海賊団は大戦果を挙げて帰港しようとした。その時、星系境界に近い場所で、急に大規模熱源を探知、目の前に60隻を超えるであろう、大艦隊がFTLジャンプして現れた。

この艦隊には弩級戦艦含め、戦艦や空母も含まれる主力艦隊級の陣容だった。


「うあぁ・・・何これ。」


カタリナとサクラモカが口を大きく開けたまま固まった。


その時、大艦隊側から通信が入る。慌てて眼帯を外してカタリナに押し付けたサクラモカが通信に応じた。


「こちらド・ラ・ヴァル侯爵の私設艦隊イリブラである。

 ドントレックス艦隊、道をあけろ!」


サクラモカは慌てて敬礼し、指示に従った。


「承知いたしました。すぐさま道をあけます。

 失礼いたしました!」


赤毛猫海賊団のコルベット6隻は道をあけてイリブラ艦隊が通り過ぎるを待った。


そして見えなくなるのを確認してから、全艦密集して航行を開始した。


「怖かったね。」


サクラモカは率直な意見を言ったが、カタリナの心はここになかった。

目にハートと星が交互に輝いている。


「おっおねーちゃん?」


「ここに来てよかった。良いもの見れた!

 私、あの一番でかい戦艦貰うわ!」


「………うぇえええええええええ?!

 ど・・・弩級戦艦だぞ!!」


「もう決めた!!」

次の目標が決まった。

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