第9話 突入してもいい?

遂にカタリナ達のネコパンチ号は惑星プニャルード近辺の小惑星帯に浮かぶ鉱山宇宙基地が見えるところまでやって来た。クルー達の緊張は最高潮に達していた。


一般的な弱小海賊が貴族の私設艦隊に対して強奪を計るなどとは、前代未聞であり、実際の戦術作戦も破天荒なものだから無理もない。


「おねーちゃん、戦いが始まったらすぐにミサイルに乗り込んでもらうから。

 一応ちゃんと宇宙服は着てよね。」


「うん、でも、ちょっとおねーちゃん、怖くなってきた。トイレ行ってきていい?」


「何回目よ!無駄無駄!

 とにかく大丈夫よ、おねーちゃんだったら!

 具体的な作戦を言うね。

 ミサイルの弾頭からは火薬の代わりに、ミメシス・コアをセットした座席を置いとくから。」


「ミメシス・コアって何?」


急にグイっとミネが割り込んできた。


「私が説明します!わ・た・し・が……買いました!


 生体共鳴式衝撃吸収装置〈ミメシス・コア〉、対象者の筋肉・骨格の振動パターン をリアルタイムで解析し、衝撃波を”身体に合った形”に分散する装置です。国家要人クラスが乗る高級車にしか装備されてないエアバックシステムです!


 わ・た・し・が……入手しました。」


いつものオタク風の無呼吸での一気説明を繰り出す。



「はい、ありがとう。で、それすごいの?」


「カタリナ様、あっさりしすぎです!

 これ、超・超・超・超・絶・すごいんですよ!!

 衝撃が”個人ごとに最適化”されるんです。

 装置はナノレベルで身体に密着して、衝突時に”共鳴”して衝撃を逃がすんです!」


「うさんくさい。却下!」


「あぁあぁぁあぁあぁあぁぁ!!!!!」


「ミネが発狂するから信用してあげてよ。

 確かにどこかの星系国家の大統領がこれで命拾いしたそうだよ。」


「なんでミネが手に入れられるのさ、パチモンでしょう?」


「ちーがーう!!”私だから”手に入るんです!

 じゃあ、もう生身で入って衝撃で死んでください。」


「あー、ごめんごめん、じゃあ使い方教えて。」


「単純です。

 この装置を有効にした状態で、ミサイルの中の椅子に座ってください。

 シートベルトつけて縮こまっていたらズドンです。

 衝撃が収まったら動いてもらってOKです。

 1回で使えなくなるのでそのまま捨てていいです。」


「あっそう。簡単だからよかった。」


「カタリナ様、そこはもうちょっと感動するシーンなんですけ……」


自慢気に話すミネの口を押えて、サクラモカが作戦の説明を続けた。


「で、作戦の続きね。

 ミサイルが刺さって敵旗艦の中に入れたら、そこでミサイルの自爆スイッチを入れて。

 小規模の爆薬でミサイルが離脱する。分かってると思うけど空気が抜けるよ。

 外に飛ばされないようにしっかりつかまれる所で自爆スイッチを押してね。」


「ミサイルに爆薬はいってるんじゃん!!」


また急に不安な顔にもどる。


「モカ……おねーちゃんは今、十年に一度の酷い下痢が起きた。この作戦は中止しよう。」


「もう、そういうの良いから。

 引っかかってるのを外す程度のちょっとした火薬よ。

 花火花火!」


「花火も近くで爆発したら大変なことになるんだぞ??

 それに爆発しなくても外に飛ばされて宇宙空間彷徨うのはやだ。

 おねーちゃんの握力をゴリラ並と勘違いしてないか?」


「だからぁ……。

 ちょっとだけ飛ばされないように我慢したら大丈夫!

 最近の船にはバルム・パッチの設置が義務付けられてるから。」


「バルム・パッチ?」


サクラモカが呆れた顔をする。


「ほんとに何も知らないんだね。

 よくそれで“宇宙海賊やる!”なんて言えたもんだよ。」


今度はサクラモカが丁寧に説明した。こんな常識的な設備はミネにとってオタク心がうずかないらしい。


「バルム・パッチは通称:ガム膜、風船補修、艦の絆創膏。

 自動的に損傷を検出して放出されるの。

 すぐに外壁の損傷部分に張り付いて硬化するわ。

 応急処置だけど空気漏れや粒子流出は完全に封止できるの。」


「へぇ・・・便利だね。」


「大丈夫ってわかった?下痢治ったよね?

 で、宇宙服の下には神聖帝国軍の一般軍人服を着て行って。

 私設艦隊はこの制服を着ているから。

 兵士に紛れて旗艦の提督を狙ってほしいの。

 中は同じコルベット艦、迷うことはないわ。

 ね?なんかできる気がして来たでしょう?」


「分かった。なんとなくね。じゃあ各員戦闘配備について!」


クルー達が顔を見合わせていた。


(普通、さっきの説明で実行する気になる???)



・・・・・

・・・・

・・・

・・


「おねーちゃん、準備できた?」


「うん、できた。でもちょっとこの制服、胸のあたりがきつい。」


「贅沢いわないの!

 レーザーブレードはちゃんと見えないように隠して持って行ってね。

 あと2時間もしたら私設艦隊〈ドントレックス〉が来るわ。」


「さて・・初陣だね。」


「あぁそうそう。おねーちゃん、眼帯、貸して。」


「え?」


「おねーちゃんは侵入するんだから顔を見せない方がいいと思うの。

 でも赤毛猫海賊団の名前は売っておきたいしね。

 私が宣戦布告するわ。

 おねーちゃんの名前でするから眼帯があった方がいいかと。」


「まってまって!

 処女航海の号令に続いて、処女襲撃の宣言も私から奪い取るの!?」


「仕方ないじゃん、そういう戦術にしたんだし。

 それに姉妹だからわかんないわよ。

 むしろこれが成功した時の手配書の似顔絵が可愛くなるんじゃない?」


「………それ。どういう意味?」


「とにかく、貸して。おねーちゃんは早くミサイルに入って!」


「……なんか面白くないなぁ………」


各員、持ち場に付いたところで5隻のコルベット艦隊が近づいてきた。

こちらを視認したところで停止して警戒を示す。


サクラモカが通信の強制接続を実施した。


「ごきげんよう!私はかの凶悪な赤毛猫海賊団団長 カタリナ様だ!

 お前達を獲物に決めた!今すぐ武装解除して船団を放棄したら命だけは助けてやる!」


カタリナの真似をしつつノリノリで宣言し、最後ににっこり笑ってアピールしたがそれよりも前に通信は断ち切られた。


そして宙間小型魚雷が多数飛んでくる。

シールドを使うまでもなく、ミネが左右のスラスターで絶妙にかわす。


「よし、戦闘開始だ。

 ヒット&アウェイで敵艦の動力部を中心にダメージを与えろ!

 ミネ、絶対に立ち止まらずによろしく!」


宇宙空間内を6隻のコルベット艦が縦横無尽に動き回り、レーザー砲を撃ちあう。

一隻だけ明らかに速度の違う異質な船がいる、ネコパンチ号だ。


ミネの操縦は神懸っていた。小型コルベット艦が備える艦砲は威力の弱い青色レーザー、それは決め手にはなりえなかったが、徐々にシールドと装甲を削っていく。

敵の攻撃は当たらず、ネコパンチ号のレーザーは正確に敵の動力部を削り続けた。


ボールタレット大臣のローズが、通信モニタのカットインサブモニタに自身が表示されたことに気付いて、画面いっぱいに顔を近づけて、満面の笑顔でダブルピースをする。


5隻ともが小破し、速力が60%ほどダウンしたのを確認したところで作戦開始した。


「ミネ、おねがい!!」


ミネは敵旗艦にピタリと寄せて、サイドミサイル発射口からカタリナミサイルを撃ち込んだ!


先端3割ほどが装甲にめり込む。おそらく船内に通じただろう。


ガシュッ!

中にいたカタリナは発射音がしたと思った途端にもの凄い衝撃と共にミサイルが止まる。

慣性によって中のカタリナに強烈な衝撃が走る……はずだったが。

衝突の瞬間、ミメシス・コア装置が“身体の振動と共鳴”し、まるで自分が衝撃を吸収したような感覚に襲われた。


「……おっ面白ぇ!!!」


無傷のカタリナはベルトを外して立ち上がり、先端をレーザーブレードで切り裂いた。

そのまま飛び降りるとコルベット級の艦内に立っていた。

取り急ぎ、奥の手すりにつかまると自爆スイッチを押す。


ぽすんっ!


可愛らしい爆発と共にミサイルが取り除かれ、すごい勢いで空気が流れた。

同時にバルム・パッチシステムの風船が多数現れて開いた穴を完全にふさいだ。


「へぇ、最近の船ってすごいね。

 ……モカ、ちゃんとお姉ちゃんのこと考えてくれたんだ。

 爆薬も最小限にして。……可愛い奴め。」


カタリナは独り言を言うと来ていた宇宙服を脱ぎ捨てた。


「さてとやりますか!!」


一方、作戦通りミサイルが取り除かれ穴がふさがれたのを見届けるとネコパンチ号は高速で離脱し、遠巻きに敵を牽制し続けた。


ミネがポツリと呟く。


「カタリナ様を送り込まなくてもこのまま、5隻の動力を破壊して拿捕するのも簡単だったのでは?」


それくらいネコパンチ号はコルベット級の常識を超えていたと言える。


「ふふふ……。そんなのはわかってるわよ。

 派手好きなおねーちゃんに見せ場をつくってあげたんじゃない!」


サクラモカはいたずらっ子ぽく微笑んだ。

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