第6話 歓迎会開いていい?

赤毛猫海賊団は新たに部下も25名増え、アジトや船内は一気に賑やかになった。

だが、出航しようとした矢先、ミネからの怒涛のチェックリストが、カタリナとサクラモカに突きつけられた。


「カタリナ様、モカ様。何を勝手に出航しようとしているんですか!」


ミネはチェックリストを片手に、ぷんぷんと怒っていた。


「船の補給はどうするんですか?

 食料、水、弾薬、対エネルギー兵器用のシールドコンデンサ、

 実弾兵器向けの追加装甲、全部足りてませんよ!」


わざわざタブレットをこちらに向けて補給状況を見せつける。


「前の持ち主は商船のフリをして奇襲するつもりだったんでしょう。

 全然大したものが積んでません。

 まったく、こんな状態で出航しようだなんて、ありえません!」


ミネは一息で文句を言いきった。


”こんな状態で出航しようなんてありない”

カタリナにはここしか伝わっていないが、まぁ十分だろう。


ミネはブツブツと文句を言いながらも、その表情はどこか嬉々としている。

なんだかんだ、こういう下準備的な作業は大好きみたいだ。


「ちょっと、ミネ。そんなに怒らなくてもいいじゃない。全部、お前の仕事だろ?」


カタリナが優雅に言うと、ミネは眉間に皺を寄せ、怒りを露わにした。

その割には口元は笑っている。執事として優秀なコタも時々そういう表情をする。

やはり血はつながっている。


「はい!”私の仕事”です!だから、二人は邪魔しないでください!」


嬉々として捲し立てた。


「私は今から、コルベット艦二隻を売却したお金で、

 装備の強化を図ります。

 それに時間がかかるので、二人は暇でしょうが、

 私に話しかけないでください!」


ミネはそう言って、一心不乱にカタログとにらめっこを始めた。その目は、最高の装備を手に入れようと、キラキラと輝いている。

その姿は、まるで高級ブランドの新作カタログを眺める少女のようだ。


カタリナとサクラモカは暇そうにしていた。やることがない。することもない。ぶっちゃけ、海賊稼業なんて楽勝だと思っていたのだ。だが、現実は違った。


「ねぇ、モカ。つまんない。暇だわ」


カタリナが床に寝転がり、ぼやく。サクラモカも、ミネの仕事ぶりを横目で見て、ため息をついた。


「仕方ないでしょ。これも海賊の仕事なんだから…」


「そうだ!」


カタリナが閃いたように体を起こした。


「カタリナ様、せっかく新しい仲間が増えたんです!」


カタリナが次の言葉を発するよりも早く、ミネが割り込んだ。


「今夜、3番街の“よしよし亭”を貸し切り手配しておきましたので、歓迎会でもしててください!私は欠席で!」


データパッドを片手に、顔も見ずに言い放った。カタリナとサクラモカは目を丸くする。


「お前、いつの間にそんな手配を…」


「私の仕事は、カタリナ様の望みを叶えることです。」


相変わらずノールックで返事する。


「カタリナ様が暇だとおっしゃるなら、私が暇をつぶすための手配をするのは当然でしょう」


ミネはそう言って、再びカタログに目を落とした。

にやにやしていて、ちょっと不気味に見える。

正直、増えた部下の25人は、まだカタリナの顔をまともに見れないくらい恐怖の第一印象を抱いていた。


「あの団長、ヤバい奴じゃねぇか…」

「あの豪傑船長を、一人でボコボコにしてたぞ…」

「しかも、顔面偏差値とか言って、男は全員クビだぞ…」


そんな陰口が聞こえてくる。


「こりゃマズイわ!」


カタリナはそう呟き、独自の新人歓迎会を企画した。

カタリナとサクラモカを含めた女の子27人のみの、超女子会だ。


「さあ、みんな!今夜は楽しむわよ!」


「あー……はい。」


最初はみんな戸惑っていた。無理もない。無茶苦茶な団長だ。だが、カタリナが率先して、自分の特技を披露したり、バカな話をして場を盛り上げるうちに、少しずつ場の空気が和らいでいく。


そして新しい部下の自己紹介から役割分担をしていった。


「あーはい、あたし、タレット得意です。飛んでる戦闘機を堕としたことあります。」

「おー!お前、ボールタレット(球形砲塔)大臣な!」


「私は料理が得意です……。結構何でも作れます。」

「よしよし、お前は料理副大臣だ!大臣はミネだから我慢してくれ、あいつマジ上手いから。」


「私は綺麗好きで掃除が大好きです。」

「いいねぇ!お前はアジトの掃除大臣。」


「えっと…私…あんまり特技なくて……あっ下ネタ得意ですっ!」

「ぎゃははは!お前下ネタ大臣なっ!!」


「はい……えっと・・機関士です。機械いじるのは得意です。」

「おぉぉぉ!!お前機関士大臣な!」


「おねーちゃん……大臣って何人いるの?」


「え?私除いた27人全員大臣にする予定だぞ。」


「はいはい、じゃあ私、総理大臣でよろしく。」


サクラモカの投げやりな言葉で笑いが起きる。少しずつ緊張がほぐれてきていた。


・・・・

・・・・


「おねーちゃん…未成年なんだからノンアルにしようよ」


サクラモカがカタリナの酒を止めようとするが、カタリナはすでに酔っ払っている。


「へへひゃあ……モカぁ…これ、ノンアルだっつーの!」


カタリナはそう言って、一気飲みした。


「お、おい、おねーちゃん!それ、ノンアルじゃないから!」


サクラモカが慌てて言うが、もう手遅れだった。


いつの間にか、大好きな芸能人の話から、部下たちの元彼の愚痴合戦への茶々入れ、ぐちゃぐちゃな感じで大盛り上がり。


「私の元彼、マジありえなくね?私が夜勤明けで疲れてるのに、ご飯作ってくれないとか言ってキレてきたんだよ!」


「ぎゃはははは……そいつ完全にヒモのくせしてえらっそうだなぁ!お前、男見る目なさすぎっ!」


いつのまにか肩を組んでマブダチ風のカタリナ。


「まじかよ!うちの元カレはさ、私が他の男と話しただけでキレてくるタイプでさ、もうマジやばかった!」


「わかる!それわかる!」


女の子たちはキャッキャと盛り上がっていた。笑顔のカタリナは、その輪の中心に見事に居座っていた。


「団長って、意外と話しやすい人なんですね。」

「なんか、怖い人だと思ってたけど、全然そんなことないじゃん。」


新クルーたちが、カタリナへの警戒心を解いていく。


「ふふん。私の美しさには、誰にも逆らえないってだけよ。やさしいんだからぁ、あへへへ」


カタリナはそう言って、グラスを傾けた。


「おねーちゃん、自己肯定感強いだけの普通の人だから。」


カタリナが酔っ払って、話を聞いてなさそうなのを確認すると、サクラモカが小声で暴露する。


「ちなみに、おねーちゃん、性格がこんなだから彼氏いない歴=年齢……ぷぷぷ」


「えー!?うそー?このルックスで?」

「あーなんかわかる!」

「ははは……副団長、それ言っちゃいけないやつぅー」


サクラモカも団員たちと自然に笑いあえた。


夜も更け、みんながふらふらになりながらアジトへ戻る途中、包帯でぐるぐる巻きにされた、例の海賊船長と出会った。


「ひぎゃぁ!」


船長は悲鳴を上げて逃げ出すが、カタリナに捕まえられてしまう。カタリナは酔っぱらっていたので、ご機嫌だった。


「いよぉー!なんかお前見たことあるな!」

「へっへい…」


船長は怯えながら返事をする。


「ん…おぅぇえええ」


カタリナはそのまま、船長の一張羅にゲ●を吐きつけた。


「ん?…お前、くせえな!ちゃんと風呂入ってねーだろ。失せろ、くせくせ!!」


カタリナはそう言いながら、船長を蹴り飛ばした。


「…ぐぐぐぐ」


船長は歯ぎしりしながら、走り去っていった。


「ふ…ふははははは」


カタリナが笑い出すと、部下たちもつられて笑いだした。


「団長って、面白い方ですね!」

「なんか、すごい…」


彼女たちの顔から、警戒の色が完全に消えた。


「まぁね。面白いって点では否定しないけど…みんな苦労するから気を付けてね」


サクラモカがウインクしながら舌を出し、そう言うと、みんなが苦笑いを浮かべた。


「モカァ~、そんなこと言うなよ~!お姉ちゃんはモカが大好きなんだぞ~!」


カタリナはまるで戦闘中の動きのように、モカに避ける隙すら与えず、顔中にキスをした。


食べ物の油と口紅で汚れたキスマークがサクラモカの顔中についた。

ほんのりゲ●の臭いがする。


「ぎぃえええぇえぇ!?」


深夜にサクラモカの悲鳴と団員たちの笑いが響いた。


こうして、赤毛猫海賊団は団結し、旅立ちの準備が完了した。

精鋭12名をコルベット艦に乗せ、残りの13名がアジト運営にあたる。


カタリナは実家に迷惑が掛からないようにコタと父親をアジトに呼び寄せた。

元々ぼろ屋敷とコタくらいしか財産の無かった病弱な父親は娘達のやることをニコニコしながら見守っている。

(多分理解していない。それよりも13人の若い女の子達に囲まれてちょっと嬉しいのかも?)


そして、コタが来た以上、この13人を使って、このアジトは不気味なほど発展する予感しかしない。


新しい仲間を得て、彼女たちの伝説の始まりは、もうすぐそこまで来ていた。

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