第5話 クルーはこいつらでいい?

コルベット戦闘艦の狭い艦内も、三人の少女達にとっては、いささか大きな空間だった。艦の運用自体はオートモードを駆使して、三人でも可能だが、戦闘となると、そうはいかない。


特にカタリナの「海賊や軍船しか狙わない」という独自のルールがある以上、相手は手練れの強敵ばかりになる。


「正直、クルーが欲しいわね。」


顎に指を当てて真剣に考え始める。


「射撃が上手い人がいいかな。私、あのタレット全然当たらなくてさ」


「そうですね。

 それに、カタリナ様の戦闘スタイルは、

 一人で敵に突っ込んでいくタイプですから、

 艦の運用をモカ様と二人で行うのはリスクが高いです。」


ミネがデータパッドを操作しながら淡々と答える。


「索敵やダメージコントロール、弾薬管理を考えると、

 標準運用の15人以上は必要でしょう。」


「じゃあ、どこで探す?こんな辺境の星系に、ろくな人材いるわけないし…」


サクラモカの言葉に、カタリナが優雅に微笑んだ。


「大丈夫よ。荒くれ者ってのは、荒くれ者が集まる場所に自然といるものよ。」


そう言って、彼女は星系要塞内の居住ブロックの、特に治安が悪いと言われる一角へと足を向けた。

そこは、宇宙海賊たちの根城も多く、酒場には荒くれ者がたむろしている。


酒場の一つに入った途端、三人は後悔した。

タバコの煙と酒の匂いが混じり合い、むさ苦しい男たちが大声で騒いでいる。

薄暗い照明の中、床はベタつき、視界の端にはGが駆け抜けていく。ミネは顔を青ざめさせ、震え始めた。


とりあえず、三人はバーカウンターに座った。

美少女三人が入って来たことで、海賊たちの興味がすぐに集まる。質の悪い男が、臭い息をはきながらサクラモカの横に座り、ニヤニヤとちょっかいを出し始めた。


「お嬢ちゃんたち、こんなところで何してるんだ?俺といいことしないか?」


その瞬間、カタリナがさっと席を立ち、男の顎を綺麗に殴り飛ばした。


「私達はあの有名な赤毛猫海賊団だぞ!失せろ、汚らわしい。」


凄んだカタリナだったが、海賊たちも荒くれなので気にする様子はない。むしろ、カタリナの挑発的な態度に、店の雰囲気が一気に変わった。


「なんだ、テメェ。粋がりやがって」


別の男が、臭い息をはきながら、舐め回すような目つきで近づいてくる。


「赤毛猫海賊団??しらんなぁ、どうせ新入りだろ?」


ゲスな顔がさらにゲスくなる。


「そんな悪い子猫ちゃんにはお仕置きしてやらないといけないなぁ。」


酒場の空気が一瞬凍り付いた。

実はこの男、この辺りでは有名な極悪な豪傑海賊船長で、暴力によって一般人や弱小海賊に対して●×▼(ピー…規制音)のような悪逆行為を多数しており、巷では恐れられていた。

団員は百人を超え、恐怖によって部下を縛り、この辺りを荒らしまわっていた。

女性が攫われて売り飛ばされたというような噂もあって、周囲の海賊たちが、憐れむような目でカタリナを見た。


カタリナの猫耳がピクピク動いた。

彼女の猫耳は悪党センサーとでもいえるような、野生の勘のようなものだ。

その悪臭を嗅ぎ付け、この男に容赦は不要と判断した。

何が起きたか分からないような速さで、カタリナが近くにあったビール瓶で男の頭を殴りつけた。鈍い音を立てて男が倒れ、カタリナは倒れた男の鼻を執拗に足で踏み潰した。


その瞬間、カタリナはハッと我に返った。


「あら~、ごめんあそばせ、足が滑ったわ。おほほほほ」


そう言って取り繕いながら、カタリナは倒れている海賊船長の髪を掴み、外へと引きずっていった。


酒場の皆は唖然としていた。そこに、サクラモカとミネがすかさず駆け寄る。


「ごめんなさい、ごめんなさい!どうぞ、これでビールでも…」


サクラモカは頭を下げながら、周りの海賊たちに小銭を渡してヘコヘコと後始末をした。


路地裏で、カタリナは顔が変わるほど男を蹴りつけ、アジトの場所を聞き出す。


「もう二度と私に逆らわないと、神様に誓いなさい」


「ひ…ひゃい…」


男は怯えながらうなずいた。


男の髪を引っ張って引きずっていくカタリナ。


「ねぇ、なんか私、今めっちゃ海賊っぽくない?荒くれ感満載!」


「いや、おねーちゃん、それ引くレベル。」


「おねーちゃんってさ、ホント悪党には容赦しないよね。」


「あー。悪党は懲らしめないと改心しないからなぁ。

 私見抜くの上手いから誤爆もないし!

 ほら、誰だっけ?悪い男に騙されて、私が散々忠告したのに。

 最後酷い目にあってたよね?」


「みーちゃん?」


「そうそう、恋は盲目、あの時ちゃんと殴っておけばよかったってのが、教訓になったの。」


「おねーちゃん、時々恋について偉そうに語るけど、恋について知ってるの?」


「また馬鹿にして。知ってるよ!コイ科の淡水魚で髭が生えた不細工な魚。」


「……。はいはい、よくご存知で。」


ミネも呆れながら割り込んだ。


「カタリナ様、そろそろアジトに着きますが。」


「あ、ごめんごめん。じゃあ行くか!」


アジトの入り口に到着し、カタリナはボロボロになるほど痛めつけられた船長を蹴り入れる。


唖然とする海賊たち。それを無視してカタリナは再び馬乗りになり、船長をタコ殴りにした。


鈍い音がするたびに、船長の悲鳴が響き、海賊たちは恐怖で冷や汗を流した。


「ここいいわねー、私アジトがほっしいなー!」


そう言いながら、カタリナは立ち上がり、海賊たちの前で船長を蹴りつける。


「た…たしゅけてくだしゃい…ここ、ざ…ざじあげまずので……」


遂に船長が泣きながら命乞い。


「本当、きゃー!嬉しい!お前、意外と良い奴だね。」


カタリナはにっこりと微笑んだ。


「私、話し合いが通じる人、大好き。お前みたいな悪党は大っ嫌いだけどね。」


カタリナの言動に、周りの海賊たちもドン引きする。

そしてサクラモカとミネも。


「おねーちゃんは足で話し合いするんだね、覚えておこ……。」


「ごめんね、やりすぎたかしら?

 でも、あんた、なんか悪い事してそうな顔してたのよ。

 ちゃんと改心しなさいよ。はい、治療費ね。」


ポケットから小銭を取り出して海賊船長に手渡した。


「ば・・ばい、がいじんじまぶ………。(はっはい、改心します)」


みんなの雰囲気に「ん?」という不思議そうな顔をしたカタリナだったが、構わず大声で叫んだ。


「お前ら、並べ!」


カタリナが命令すると、海賊たちは恐怖に震えながらその場に整列した。


「私達、クルーを探してるの!私達の船に乗りたい人いるー?」


ぐるっと海賊たちを眺めまわすと、海賊たちは皆、恐怖に震えながら首を縦に振った。


「話早くて助かるわー。

 でもね!私達は銀河最強の赤毛猫海賊団なの!

 簡単に入団できないから今から採用試験しまーす!」


ノリノリで宣言した後、合格者を指さした。


「そうね、お前、それとお前」


カタリナは、並んでいる船員の中から女性だけをどんどん指さしていく。その数は、全部で25名だった。


「それ以外はクビだ。立ち去れ、ここは私のアジトだから二度と近づくなよ!」


「おねーちゃん…残したのみんな女の子だけど…男はクビ?」


サクラモカが戸惑いながら尋ねる。


「え?仕方ないじゃん。私、顔面偏差値60未満の男は名前おぼえらんないもん。」


心底残念そうな顔をして続けた。


「カッコいい奴いなかったんだよ。」


「採用試験ってそれ??顔面偏差値、前も誰かに言ってたよね。冗談じゃなかったんだ?」


「え?みんなそうじゃないの? でもさ、ちゃんと見極めて選んでるわよ。」


カタリナが選抜した子達に目を向ける。


「この子達は多分、みんな悪い子じゃないよ。」


確かに無理やり働かされている子達のような気がする。


「うん、私ね、勘が良いのよ。

 悪い事してる奴、なんとなくわかるの。

 この不合格の奴ら、根っからの悪党よ。

 これでも殴ってやりたいのを我慢してるのよ??」


サクラモカは「やれやれ……」という顔をしたが少し微笑んだ。


「一発ずつぐらい殴ってもいいんじゃない?悪党だったら。」


かくして、カタリナはアジトと25名の部下、そしてその海賊団のコルベット級軍船を二隻追加で手に入れた。海賊のコルベット艦は薄汚れて臭かったので、売ることにした。


ミネはクルーへの給料に回せると大喜びで、即座に相場より少し高めで売り抜いた。


「ミネ、やっぱりあんた地味な天才だよね。商人やっても成功したんじゃない?」


サクラモカが嬉々としてお金を数えているミネを見ながらつぶやいた。


「うふふふ・・。初獲物はどれにする?これかな?あれかな?」


サクラモカがカタリナの頭越しに覗き込んだ。

彼女のタブレット上で表示されている艦隊情報を見て項垂れた。


「おねーちゃん……コルベット一隻で艦隊と戦うとか脳味噌に茸でも生えてるんじゃない?」


カタリナはそれを無視して嬉しそうに情報を眺めていた。

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