既知となった未知となら、ソーグッド?

新佐名ハローズ

ええと……うん、まあそんな感じ。

 

 

「……で、ここはどこで、あんたは誰?」


 さっきからペラペラなんか喋ってるんだけど、まあ何言ってるんだか分かんない。向こうは通じてるつもりなのかね。


 私は名乗るほどの者でもないけど名無しではないんで一応名乗っとく。川乃かわのソバヤ、23歳女。両親は変だけど日本人。よくハーフ? とか聞かれるのはもう慣れっこだし、まあ覚えにくい名前ではないからよしとしている。


 直近までの私はそれはそれは浮かれてましたよ。ちょいと頑張って買った大きめのスクーターが急に入荷したって言われたのが3日前。なんか人気だからってそれまでは年明けの1月中のどこかっていう曖昧な言い方してたのに。支払い? そら現金一括で叩きつけてやりましたよバイク屋のおいちゃんに。


 で、納車されてテンション上がっちゃったのがいかんかった。新しく手に入れたんだから試し乗りしなきゃでしょと新調しといたヘルメットやらジャケット掴んで適当にそのへんを走り出したまでは覚えてる。


 そっから気がついたらこれですよ。よく分からん空間によく分からん存在(※黒い物体X)。これはアレか、例のってやつ?


「あ~通じてるか知らないけどさ、そんなに喋られても分かんないから。どうにかしてこっちに合わせらんないなら他当たってもらえる?」


 お、ようやっと気がついたのか慌ててる雰囲気。うにゅうにゅ言いながらなんか問いかけてるような……っ!!?


『………あわ~、わ、わぁ~。………チョ・マテヨ。クテミナ、トブヨ……?』


 ……おいおい、こちとら火花飛んだぞ。勝手に頭ん中引っ掻き回した挙げ句にそのチョイス何?


『あっ、あ~。スミマメン。……ゲンチ、ヅマ? へのハンカンが、ウマくってナイやいや』


 現地語への変換が上手く行ってない、ね。あと勝手に現地妻にすな。お馬さんは食うっちゃ食うけども。


 察するに黒い物体Xこいつはファンタジー的なというより、サイエンスフューチャーなやつだな。本来は虚構フィクションだけども、私が頭おかしくなってるんじゃなきゃ実際こうやって未知との遭遇しちゃってるんだし。


 ……つーか、私の思考読まれてますがな。それ以前に記憶とかもごっそり――


『ソレはシトロン…ない! ゲンゴーのサントスをチュウチュチュして、デルタフォースかするセブンたけー、コチョコチョと……』


 ああほらもう一気に喋んない。えーと……それはしてない、言語のサンプルを抽出してデータ化する分だけちょこっとって事?


 うんうんと頷く物体X。そのアクションは私から読み取ったんだろうけど、ギリセーフにしとこう。




    ――― それからX年後 ―――




「……あの時はまさかこうなるだなんて、誰にも分かるまいて」


「ん~? おかさん、もうついたの~?」


「うんにゃ、まだよ~」


 うつらうつらしたまんま聞いてくる娘の頭をぽんぽんと触ると、まるでくすぐったそうに可愛らしいがぴこっと動く。


 あの後、割とガチめに色々ありましたよ。黒い物体Xこと他文明からはるばるやって来た知的生命体なリュッテは、私と出会って早々一目惚れして我を忘れちゃったとかで、最初にべらべらとまくし立ててたのも本人(?)的には口説いてたつもりだったらしい。そもそも、そっちの言葉なんざ分かるかっちゅうに。


 でもって最初の謎空間は邪魔が入らないように隔離されてるプライベートな亜空間の一つで、ある意味誘拐さキャトられ状態……内蔵とか血とかは抜かれてません。ちょこっと遺伝情報は採られたっぽいけど。


 向こうって形があって無いような存在らしく、私らじゃあ構造が違い過ぎるから無理かな~とかやんわり断ってたのよ。そしたら、


『だったら実体化する!』


 って言い出して。こっちとしては意味が分かんないし、詳しく聞いても結局理解はできなかったけれど。


 で、彼が選んだのが……黒猫。そこは人型ちゃうんかい。


 曰く、私と交われる為の実体であればなんでも良い。色々検討した結果、猫がキュートでとてもよろしい。だそうで。


 そのへんの感覚はやっぱり異星的。ちなみに猫型であって、まるっきり猫ではない模様。


 もうそこまで来ると押し負けっていうか、向こうがそう言ってんだから受けてみるのも面白いかなって思っちゃったんだよねぇ。ましてや、だし?


 後はもう流れですいすい~っと。こちらと向こうの違いを擦り合わせて、どちらでもない、新しい存在を。


 私と彼の子供。娘のマリカを身ごもって、さてどうしましょう。普通に産むってのはできなくはないんだろうけど、そりゃ取り上げるほうはびっくりどころじゃ済まないし。


 ここからは国際的というか、宇宙的なお話で。結局彼側のほうにも出張ってもらって、なんやかや。ぶっちゃけ難しい事は苦手なんで丸投げでした。


 妊娠とか出産はまあ普通。そんなに変わんないらしい。私にとっては初体験だからね。そういうもんとしか。


 生まれてきたときは嬉しかったというか、ほっとした。そりゃ世間では大騒ぎだし、何かあったらスケールが宇宙になっちゃうんだもの。


 鳴き声ってどうなんだろうって思ったら、猫寄りのヒトでした。なんにせよ愛らしいのは変わんないから一緒かな。


 服とかも一工夫必要なんだけど、それも面白いし、何より動き回ると活発だから大変。そこは彼も対応してくれるからなんとかなった。


 これからどう育つのか、どうやって世間に馴染んでいけるのか。不安はあるけれど――



 ええと……うん、まあそんな感じ。

 

 

 

 

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