被運の旅路〜神に愛された僕が人の愛を知るまで〜
@amasura
気づき
第1話偶然に呪われた少年
僕は、一般人とは違う。
そのことに初めて気づいたのは、5歳の頃だった。
「今日は最高のピクニック日和だな!」
「ええ、そうね。ラックのために、神様が雨を遠ざけてくれたのかもしれないわね」
その日は、連日の大雨がまるで夢であったかのように青空が晴れ渡り、丁度良いくらいに涼しい微風が吹く日だった。
幾分前から計画していたピクニックに行く日だったので、とてもラッキーだった。
「ラック、着いたぞ!」
「わあっ!やった〜!」
周囲に有るのは手触りが気持ち良い、サワサワと心地良い音を奏でる草原。
大雨が続いて泥濘んでいるはずの場所は水溜りの一つも無く、景色が開け、僕は目を輝かせた。
「よしっ、飯にしようか!」
「わかったわ。今日はサンドイッチよ〜。」
「わ〜い!」
草原に布を広げ、父と母と共にサンドイッチを食べる。
父、ジェイクは街の警備騎士で、珍しくこの日は休みが取れたらしい。
母、ナタリーは街の病院で働く看護師で、久しく取れていなかった有給が取れたらしい。
僕も、父も母も、笑い、喋り、とても幸せだった。
「・・・ん?・・・ナタリー、ラック」
「どうしたの?あなた」
家族水入らずで団欒していると、突然父が立ち上がり、腰に差している剣に手をかけた。
母は不安な表情になり、僕も不思議に思って父が見ている方へ視線を向ける。
「っ!ナタリー!ラックを連れて馬車へ!」
「あっ、あれはっ・・・!」
そこに居たのは、手負いの魔物。
マッドゴーレムと呼ばれる、本来湿地に生息する人型の魔物で、体内にある核を破壊しない限り消滅しない。
・・・が、そのマッドゴーレムは本来の右腕があったところは欠けていて、体の泥がビチャビチャと崩れ落ちそうになっていた。
父は剣を抜き、僕と母を守るため、マッドゴーレムに立ち塞がった。
「安心しろ、やつは手負いだ。問題無いから、早くラックを馬車に避難させろ!」
「わ、わかったわ!」
僕は母に連れられ、馬車へと移動する。
しかし、視線は父と魔物から逸らせなかった。
その時だった
「っ!このっ・・・!」
父が剣を振り上げ、マッドゴーレムを斬ろうとした瞬間、マッドゴーレムは手負いとは思えないほど素早い動きで父の横を抜け、こちらに向かって来た。
「っ!ナタリーッ!」
僕と母は、まだ馬車に避難できていない。
母は、急ぎ焦っているせいか父の声は聞こえておらず、マッドゴーレムが近づいていることに気づいていない。
僕は、咄嗟に偶然足元にあった拳ほどの大きさの石を掴み、マッドゴーレムに投げた。
本来なら、足止めにもならない子供の抵抗。
だが、結果は違っていた。
「っな・・・」
僕が投げた石は、偶然マッドゴーレムの核に当たり、破壊した。
マッドゴーレムの体は完全に崩れ落ち、魔石を残して消滅した。
「ナタリー!ラック!大丈夫かっ!?」
「え、ええっ、大丈夫・・・何が起こったの・・・?」
父と母は戸惑い、不思議そうにマッドゴーレムが落とした魔石を見つめる。
「わからない。僕が石を投げたら消えちゃった・・・」
僕も、何が起きたのかわからなかった。
5歳の子供が偶然足元にあった石を投げ、それが偶然手負いであったため泥が薄くなったマッドゴーレムの核に偶然当たり、偶然破壊した。
本来、そんなことはあり得ない。
だが、確かに起こった出来事だ。
「そうか・・・まあ、怪我が無くてよかった」
「そうね、あなたも何事も無くてよかったわ」
父と母は安堵のため息をつき、微笑み合う。
運が良かった。幸運だった。偶然だった。たまたまだ。
そういう話をしながら、その日は帰路に着いた。
その日から、僕は偶然を認識し始めた。
『偶然、見つけた昆虫が新種だった』
『偶然、採った植物が新薬の材料となることがわかった』
『偶然、短剣を投げたら魔物の急所に当たって消滅した』
『偶然、露天で買った骨董品が莫大な価値を持っていた』
『偶然、出会った少女を助けたら、上流階級の娘で褒美を貰えた』
・
・
・
僕は、気味が悪かった。
僕が何をしても、どんな選択をしても、何もしなくても、僕に、家族に良いように物事が動く。
僕は、それが嫌だった。
まるで僕の努力は無価値であると言われているようで。
まるで僕の思考が無駄であると言われているようで。
だから、僕はひたすら努力した。
人一倍剣の練習をした
人一倍魔法の勉強をした
人一倍医学を学んだ
人一倍商売を経験した
人一倍、人一倍、人一倍・・・
しかし、積み重ねられた僕の偶然は、既にそんなことをする段階ではなかった。
『模擬戦をすれば、相手の剣が折れた』
『試験中に、魔法が暴発する子が多発した』
『検死解剖試験で、ライバルの手元が狂った』
『店を立ち上げると、同業他社の不祥事が公表された』
周囲の反応も、その偶然に追随する。
『運が良かったな』『偶然ね〜』『たまたまだろ』『まぐれのくせに』『ツイてるね』『幸運だな』・・・
僕は、努力を辞めた。
いや、正確には他人から見える努力を辞めた。
怠惰に、傲慢に、堕落し、無関心に。
次の転機は、学校での出来事、15歳の頃だった。
「入学式の時に一目惚れしましたっ!つ、付き合ってくださいっ!」
僕に、彼女ができた。
お互い、人と付き合うのは初めてだったので、ぎこちないが初々しく、幸せだった。
しかし、その幸せも、長くは続かなった。
「・・・は?」
偶然、彼女が同級生と話しているのを聞いてしまった。
こんな偶然、必要無かった。
「あんたの彼氏ってハイスペだよね〜。羨まし〜」
「あははっ!そうでしょ〜?でも私、あいつに興味無いのよね〜」
「え〜、マジ〜?顔も悪くないし、剣も魔法もできるし賢い。優良物件じゃん!」
「別にあいつの顔はタイプじゃないの〜」
これほどまでに、自身の幸運を恨んだ日は無かった。
「まあ金は持ってるし〜、財布として使うわ〜」
「あははっ!ひっど〜!」
僕は、何も言えず、何もできず、その場を去った。
その女は、僕を都合の良い財布としてしか見ていなかった。
僕が稼いだ金を使い、高価なアクセサリーや衣服、化粧品、スイーツを購入し、消費する。
僕は、何もしなかった。
幸運にも、その女が消費する金よりも多くの金が利益として入っていた。
だから、もう、何も、考えたくなかった。
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〈登場人物〉
名前:ラック・テューナー
年齢:本編時空では22歳
種族:人間
概要:この物語の主人公。警備騎士の父ジェイクと看護師の母ナタリーの間に生まれた少年。本編時空では両者共に亡くなっている。5歳の頃から自身の異常な偶然の力を認識するようになった。自分の意思に反し、ありとあらゆる幸運、偶然、不幸が舞い込むが、結果としてラックに害は起きない。初めの頃はそれに抗い、努力によって自己を確立しようと奮闘していたが、初めてできた彼女が金目当てであったことで心が折れ、全てどうでも良くなった。他人からの評価、評判に興味を持たず、自分だけが正しい自分を知っていれば良いと考えるようになった。
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