知らない家

☒☒☒

第1話

 先日、散歩をしていたらふととあるアパートが目にとまった。

 なんだかとても懐かしい気持ちになるのだ。

 もちろん、私はそこに住んでいたことなんてない。

 地方で育ち、東京にでてきたのはここ最近の話なのだ。

 なのに、なぜだかそのアパートのことを知っている気がする。

 間取りやら、庭の片隅に咲く雑草の花まで細やかに思い出せる。

 見ているうちに、よりその記憶が鮮明になっていく。

 そう、内装やら構造だけでなく、自分がその空間にいることが手に取る様に想像できるのだ。

 まるで、そこで暮らした日々があるような。

 だれか知り合いがいて、訪れただけではない感覚。

 そこで生活して、自分のリズムがあって、なにか匂いまで染みついているようなそんな気持ちになるのだ。


 私は怖くなってその場を離れた。


 なんとなく、そのままそこに居たらいけないきがした。

 ポケットにてを突っ込めばそのアパートの一室の鍵がでてきて、私は今とは全く別な生活をそこではじめてしまうような気がする。

 ポケットの中には確かになにか鍵のような重みがある。

 さっきまでそんな重さなかったはずなのに。

 うちは電子キーでロックをかけているので鍵なんてとんともちあるかなくなったというのに。


 私はその場を走って逃げた。

 途中で何かが落ちてチャリンとおとがしたけど、聞かなかったことにする。

 大方、ポケットの小銭でも落としたのだろう。


 私は二度とあの場所にはいかない。

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知らない家 ☒☒☒ @kakuyomu7

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