第2話 オークに攫われた
「っぁ……!」
ユーインは痛みを覚え、目を覚ませば見覚えのない部屋のベッドに寝かされていた。
壁も天井も木製で、小屋のような部屋だ。
痛みの元凶であるブラックドッグに噛まれた腕や脚を確認すれば、布が巻かれ治療された跡がある。
ユーインにはあのあとどうなったのかわからないが、どうやら誰かに助けられ一命をとりとめたようだ。きっと冒険者のパーティーに見つけられ、連れて帰って貰ったのかもしれない。
「生きてる……」
「生きてるぅぅ……!」
「ひぇ!!」
生きていたことに安堵して呟いたそれに返事があり、そっちを向いたら真っ黒な豚顔があって驚き、喉から悲鳴が出た。
黒い被毛に覆われた大きな顔、四本の牙、真っ赤な目は気を失う前、最後に見た。
「お、オーク……」
生きてはいるが、まだ助かっていないらしい。
つまり、この場所はこのオークの巣で、攫われたのだとユーインは理解した。
「よかったぁ……目を覚まさないから、死んじゃうかと思ったぁ……!」
「た、食べないで!」
「食べないよぉ?!」
床に座り込んで、ベッドに顎を乗せ、逆ハート形の鼻をフゴフゴ鳴らしながら、小さな赤い目が溶けたんじゃないかと錯覚するくらいベショベショに泣いていた。
そうやって気を許せば、何をするのか分からない。相手はモンスターだ、油断ならない。
「よかたねぇ、よかったぁ。ずっと目を覚まさなかったから、心配したんだよぉ。人間って、七日も食べないでいると死んじゃう脆い生き物だって、昔、長老が言ってたからぁ、心配で、心配で……」
「ずっと……? 確かに、三日以上水分摂らないと……」
「大変だぁ! もう三日も寝てたんだよぉ! 死んじゃう! 作ったスープあるから、持ってくるっ!」
巨体を揺らしドスドスと踏み鳴らし慌てて部屋を出ていった。
オークの後を唖然と見送る。
一体あれはなんなんだ、本当にいいヤツなんじゃとほんのり思う。ユーインを食う気なら、治療する必要もないし、三日も世話をして、目覚めるまで待つ理由もよくわからない。
いいや、相手は恐ろしいモンスターなのだから油断してはならないと改めて気を引き締めなければ。
オークが木のボウルに温かいスープを入れて持ってきた。改めて見上げると、本当に壁のようで恐怖心を覚える。
渡されたスープのにおいは、悪くない。
このオークの目的が何であれ、生きる為に用意されたスープに口をつける。
「やさしい……」
ほんのり塩味の、ものすごく優しい――というか、薄味の、体に良さそうな味がして思わず呟いた。
入ってる肉はホロホロで、ゴロゴロ入っている野菜の出汁が出ていて不味くはない。不味くはないが。
――味、うっっす……
「たくさん食べて元気になってねぇ」
嬉しそうにするオークに、何となく言いづらい。けど、これを完食するのはちょっとつらかった。
【BL】白髪の駆け出し冒険者、真っ黒オークに奪われる 椎葉たき @shiibataki
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