マジカル☆ヴァルキリー
やざき わかば
マジカル☆ヴァルキリー
私は中学3年生の女子。ひょんなことから魔法少女となり、日々悪の宇宙人と戦っている。
あれは忘れもしない、去年の誕生日。寝ようと部屋の電気を消し、ベッドに潜り込むと、ふと眼の前に妙な生物が現れた。
「見つけたポヨン☆ 君はこれから魔法少女になって、この地球を守るんだポヨン」
「だれ? あんた」
「僕はポヨン星から来たポヨン星人、モロンだポヨン☆ ずっと素質のある子を探しているポヨン。君が栄えある一人目だポヨン」
三角帽子を乗せた丸に手足がついており、鼻はなく、やたらと眼がきらきら輝いている。動くたびに光の玉なのか、星のマークみたいなのが散っていく。喋り声はなんとなく癪に障る媚び媚びボイスで、語尾に「ポヨン」と付けて喋るのがまたきつい。
絵で見るとかわいいかもしれないが、現実に接するとなんとも腹立たしい。うっとうしいし眠れないので、窓を開けてモロンとやらに言う。
「なんだかしらないけど、私もう寝るから。早く帰って」
「危ないポヨン!」
開け放した窓から、すごい勢いで部屋の中に飛び込んできたものがあった。外の明かりに照らされたその姿は、毛むくじゃらのサルそのものだけど、黒い翼がついている。なかなかおぞましい姿である。
「な、なにこれ」
「マジカルフィールド、展開」
モロンが叫ぶと同時に、なにもない空間にサルもろとも飛ばされた。
「ちょっとなにがどうなって」
「一時的に、全員そろって魔法空間に飛ばしたポヨン。これで周囲のことを考えることなく、思う存分戦えるポヨン」
「ちょちょっと、誰が戦うわけ?」
「君に決まってるポヨン。さぁこのステッキを手にして『マジカル☆ヴァルキリー』と叫ぶポヨン」
「やだよ恥ずかしい」
そうやり取りをしている間にも、サルはこちらを攻撃してくる。威力はすごそうだが、動きが遅いのでなんとか逃げることができている。
「ほら、このままだったら二人ともやられるポヨン。早く叫ぶモロン」
「語尾間違えてんじゃん、やっぱり無理してたんじゃん」
「もーいいんだよ今そんなことは。それよりも早くしないと、マジで殺される」
確かにこのままではジリ貧だ。疲れも出てきて、このままでは攻撃が当たるのも時間の問題だ。恥ずかしいけど、しかたがない。
「あとで責任とってもらうからね。『マジカル☆ヴァルキリー』」
その瞬間、眩しい光が私を包み、モロンの亜種みたいな連中が寄って集って私の服を引きちぎり、代わりに新しい衣装を手際よく着せていく。この間、光が私の身体をうまいこと覆い隠し、着替えの様子は誰にも見られていないようだ。
5秒ほどで光が収まる。私は立派な鎧武者になっていた。
「よーし、行くポヨン! マジカル☆ヴァルキリー」
「ちょっとまって」
「なにか問題ポヨン?」
「こういうのってさ、ひらひらしてかわいい衣装ってのが相場じゃないの?」
「急いでて設定が間に合わなくて」
「なに設定って」
ここまで律儀に待っていたサルが業を煮やしたのか、こちらに襲いかかってきた。
「あんたもうっとうしい!」
手にした十文字槍を一振。これだけでサルは悲鳴を上げながら、消滅していった。周りには星やハートのような光が弾け飛んでいる。こんなキラキラなエフェクトで、この凶悪な攻撃と威力をごまかせると思っているのだろうか。
「さすがだポヨン、すぐに使いこなしたポヨン」
「大質量のつっこみどころが超新星爆発を起こしてブラックホール化しているけど、とりあえずひとつ聞く。今の化け物はいったいなに?」
「今のが地球侵略を企てる、ゴルギアス星人だポヨン」
「ポヨン星と名前の対比がひどい」
「今のようなやつらが、これから地球へどんどんやってくるポヨン。ゴルギアス星人は残忍で狡猾。侵略されたら一巻の終わりだポヨン。だからこれから頑張ってポヨン」
「ああ、なんでこんなことに。ところでこの格好、いつ元に戻るの」
「マジカルフィールドが解消されたら、変身前の姿に戻るポヨン」
「あんたもう語尾にポヨンなんて付けなくていいんじゃないの」
…………
それからほぼ一年。モロンの言うとおり、ほぼ毎日と言って良いほどゴルギアス星人は攻めてきた。
その度にモロンにフィールドを展開させては倒し、させては倒しの孤独な戦いを続けている。受験生なのに。そして今日もまた、一体。
「モロン、来たよ。フィールド展開お願い」
「うぃーっす」
「すっかりやさぐれたね」
「出会ったころの初々しさを持ち続けられる猛者は、この世じゃのび太くんぐらいだよ」
「あんたのび太くんのなんなのよ」
フィールド展開すると、その場にもうひとりの魔法少女が現れる。
「おまたせ。大丈夫だった?」
「これからだよ。見せ場は譲ってあげる」
「あら、ありがとう。じゃあ、張り切っちゃおうかしら」
この人は数ヶ月前、モロンが見つけてきた二人目の仲間。
変身後の姿はさらりと長い黒髪に、ハイウエストのタイトスカート。トップスは肩のあたりから、流れるようなフリルのついたホワイトブラウス。優雅で上品なクールビューティなうえに、武器が両手に持つ魔法のコルト・ガバメント。
見れば見るほど大人の女である。美女である。振りまくオーラが清々しい。
それに比べて、私は十文字槍を持った鎧武者。無骨である。振りまくオーラが禍々しい。
ふたりの共通点は、「少女ではない」ことだけだ。致命的な気がするが。
「さーふたりとも。今日もやっちゃってちょうだい」
「そんなところに転がってないで、せめて立っててくれないかな」
すっかりやる気のないモロンをよそに、クールビューティの姐さんが真っ先に敵に向かって走り出す。
今日の相手はいつものサルとは違い、タキシードを着てシルクハットを被った、スラリと長身で腕が六本あるカマキリである。
最初に戦ったサル以降、様々な形態を持った敵が出てきたが、今回はまったく毛色が違う。ゴルギアス星人もいよいよ本気を出してきたということか。
カマキリが腕を振り下ろすと衝撃波が飛んでくる。飛び道具とは小癪な。しかし、そこは同じ飛び道具の姐さん。紙一重で避けながら、二丁拳銃を巧みに操り、カマキリを追い詰めていく。
「見ろ! あれこそが有名なガン=カタだ」
「なにそれ」
一瞬の隙をついてカマキリの背後にまわり、頭部に一撃。その戦いが、短かったのか長かったのかはわからないが、姐さんは息一つ切らしておらず、汗一つかいていない。
「可哀想な坊や」
決め台詞をひとつ残し、私たちのところへ颯爽と戻って来る。これだよ。これですよ。『魔法少女』ではないかも知れないが、これこそが誰もが憧れるヒーローなわけですよ。こんな鎧武者じゃなくてね。
ただ。ただひとつだけ、姐さんには問題があった。
「終わったわよ、モロンさん」
「さすがだぜ姐さん。今日も明日もホームランだ。じゃあフィールド解除するよ」
しゅん。フィールドが解除されると同時に、元の姿に戻る私たち。
「あ、ママー」
「おかえりマイベイビー。さぁ帰ろうね。じゃあモロンさん、また明日」
「ありがとさん、またよろしく」
「おねえちゃんもばいばーい」
「ばいばい」
そう、あのクールビューティの姐さん。正体は保育園に通う女児なのだ。親御さんにどう取り入ったかは知らないが、ゴルギアス星人が攻めてくるたびに一緒に連れてくる。おそらく送迎するのが面倒くさいのだろう。
「なんで女児はあんなかっこいい大人の女で、私は鎧武者なんだろう」
「まだ設定変更の許可が下りてないんだ。今週中にはなんとかなるだろうから、ちょっと待つぽよん」
「もうね、最初のころよりすっかり声が低くなってるから、全然かわいくない」
次の日もまた攻めてくる。まったく暇なのかこのゴルギアス星人とやらは。ただ、今日は数で押し寄せてきた。大量のサルに、昨日のカマキリが後ろに数十匹。こちらの戦い方に応じて、なにやらいろいろ試しているのか。
「姐さん、今日はふたりで戦うよ」
「そうするしかなさそうね。けっこうな数だし」
「ちょっとまったー」
フィールドを展開し終えたモロンの声に振り返ると、なんとそこにはピンクのふりふりにチュチュ、白いオペラグローブにかわいいステッキという正統な『魔法少女』が、かわいらしい顔をきりっとしてこちらを向いていた。
「はじめまして! あたしも戦います!」
「新人さん、よろしくね」
「じゃあ、いくよ!」
仲間がひとり増えて三人になった私たちは、大量に襲いかかってくるサルとカマキリを撃破していった。
姐さんの優雅な銃撃。魔女っ子の爽快な広範囲魔法。そして私の雄々しい十文字槍と怒号。幸運なことに、こちらは大きな被害もなく、敵を壊滅させた。
「おつかれちゃーん。そんじゃフィールド解除」
この魔女っ子は、どんな素顔なんだろうか。きっとかわいい子なんだろう。私は失礼と思いつつも、じっと見つめてしまった。
「ああ。くたびれた。若い子と接すると、ワシまで若くなった気がするよ。じゃあまた明日ね、お嬢ちゃんたち」
「おばあちゃんじゃん」
みんなが帰ったあと、私はモロンを問い詰めた。
「ちょっと。女児はクールビューティ、おばあちゃんはかわいい魔女っ子。なんで一番年頃の私が
「くるしい、握りつぶさないで。わかった、わかった。ちょうど許可も下りたことだし、今度こそ素晴らしい姿に変身できるようにするから」
「絶対だよ。たのんだよほんとに」
そして、また性懲りもなくゴルギアス星人がやってくる。モロンがフィールドを展開し、三人は変身する。私はどんな姿になっているのだろう。やっぱりここまで来たら、リーダーみたいなかわいくてかっこいい感じが良いな。
変身シーンが終わったあと、そこには二丁拳銃を装備した美貌のクールビューティ、ステッキを持った可憐な魔女っ子。そして、バケツのようなグレートヘルムを被り、プレートアーマーを身にまとい、ゴツくて長くて重いランスを構える私。
あとから知ったのだが、このランスという武器は、普通は馬に乗って使う武器だそうだ。私は己から湧き上がる冷たい怒りを、敵に向かってぶつけることにした。一振りでかき消されていく敵の群れ。ドン引きのふたり。
「ど、どうしたのかな? お怒り?」
「おねえちゃん、ちょっとこわいよ」
「モロンは?」
私はなんとか怒りを押さえつつ、姿の見えないモロンの居場所を聞いた。
「どこだろう。そういえばさっきから姿が見えないわ」
「おねえちゃん、モロンを見つけたらどうするの?」
「マジ狩る」
マジカル☆ヴァルキリー やざき わかば @wakaba_fight
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